
職場体験の影響はその人以外にも及ぶ
仕事が仕事以外の生活に大きな影響を与えることは、誰もが知っている。職場での体験は、経済的、精神的、肉体的に、プラスに働くこともあれば、それによって大きな打撃を受けることもある。しかし、そうした影響がその人個人の生活以外にも及ぶことは、あまり知られていない。従業員が職場でどのような時間を過ごしているかは、その友人やパートナー、そして何より子どもに、大きく波及するのである。
筆者ら研究チームは、親の仕事が子どものさまざまな発達に与える影響を調べるため、10年以上にわたり追跡する縦断的調査を行った(低賃金の家庭は、一般的に最も困難を抱えているにもかかわらず、仕事と家庭の問題を扱う文献で取り上げられることが少ないため、あえて焦点を当てることにした)。370余りの低賃金労働者の家族を対象に、妊娠中からの数年間、
具体的には、自律的な働き方ができて、協力的な上司や同僚に恵まれている親は、そうでない親よりも、乳児期の我が子との関わり方がより積極的でより温かかった。それは、乳児のその後の成育に長期的かつ大きな意味を持つものだ。生後1歳までに、レスポンシブ・ケア(子どもの欲求や感情に気づき対応すること)を受け、温かく育てられた子どもは、親への愛着、感情のコントロール、社会性、学力のレベルが相対的に高くなることが多くの研究によって裏づけられている。
実際、筆者らが数年後に同じ家族を調査したところ、親になった最初の年の従業員体験がポジティブだった人の子どもは、小学校1年生時の読み取りや算数の成績、社会性が相対的に高く、問題行動も少なかった。これらの結果がすべて、母親と父親の両方に当てはまることも重視すべき点である。どの親の従業員体験も、乳児期や幼児期の子どもの発達に直接的かつ測定可能な影響を与えていた。
たとえば、ある運送会社で働く父親のタイソンは、配達の様子を上司が逐一確認できるように、監視カメラの使用を義務付けられていた。タイソンは、トップレベルの成績でありながら、会社からまったく信用されていないと感じ、強いストレスを感じていた。疲労と不満のたまった状態で帰宅するため、「手のかかる赤ちゃんに費やせるエネルギーがない」と語った。
一方、訪問看護ヘルパーのソーニャは、上司から、自分で自分の時間を管理する権限を与えられたり、顧客支援の改善点について意見を求められたりしていた。自分は尊重されているというポジティブな感情は、小学1年生の娘カヤの子育てにも波及した。仕事から帰るとカヤとのやりとりに積極的に参加し、温かさや、喜びが見られた。