失業と婚姻関係
失業者とその配偶者にとって、失業の経験や職探しについて話し合うことには、一筋縄ではいかない難しさがある。米国では、男性は一家の稼ぎ手であるという昔からの期待があるので、男性の失業と職探しは、毎日の会話の中心を占めがちだ。ただし、それは失業したのが男性の場合だけである。
テリーと妻のサンディは、テリーの失業と職探しについて話し合うことを日課にしていた。サンディは職を失ったテリーを支えたいと思っていた。テリーが自宅でその日の職探しを終える頃、サンディは長時間通勤の帰路で車から家に電話をかけて報告を聞く。サンディはこの日課について、笑いながらこう話した。「『星の王子さま』にキツネをなつかせる話がありますが、あれと同じ感じなのです。毎日、同じ時間に会う、必ずそこにいる。テリーがなついたかどうかはともかく、私は楽しみにしているのです。彼の話を聞きたいから。私にとって大切な日課なのです」。テリーにとっても、この電話は大切だった。失業中で職探しをする身でも、独りぼっちではないと思えるからだと、彼は話した。
だが時には、職探しに集中した日常会話は耐えがたいものにもなる。前述のロバートは、職探しに対する妻の熱心さがプレッシャーだと話した。「熱が入りすぎるのです。私を支えたい、手助けをしたいという思いから、私に見てほしい求人情報を寄こしてきます」。ロバートは少し間を置いて言った。「なかには面白そうな、よい仕事もあります。でも多くは、まったくやる気がしないものです。『とにかく仕事に就いて』という含みがあるのです」
一方、筆者の調査に参加した女性の失業者は、職探しについてほとんど配偶者と話し合っていなかった。彼女たちの失業はすぐに対処すべき「緊急課題」とはとらえられていなかった。むしろ、不本意な失業であっても、女性は専業主婦の生活を楽しめるはずだと憶測されていた。職探しへのプレッシャーが低いので、職探しをめぐる会話もほとんど交わされなかったのである。
たとえば、夫の年収の3倍を稼いでいたダーリーンが解雇された時のことである。失業や職探しについて誰と話し合うかと筆者が質問すると、「特に誰もいません」という答えが返ってきた。彼女は言葉を選びながら、こう付け加えた。「夫と話すこともあります。でも、私のほうが支えなければいけないと思うのです」。結果的に、ダーリーンはつぎはぎのサポートシステムに頼ることになった。毎週顔を合わせる近隣の失業中の専門職グループ、時々通うカウンセリング(ただし失業が長引くにつれ、費用を払い続けられるか心配になった)、そして時おりメールを交換するネットワーキングサークルの数人の女性。職探しに集中した会話が、家庭で日常的に交わされることはなかった。