失業と親子関係

 夫の失業の重大性と妻の失業の相対的な軽視は、親としての役割にも反映されている。失業中の男性は、子どもが物質的な面で節約を強いられることについて、極端に敏感だった。たとえば、失業中のケビンは6歳の娘のローズが子犬を飼うことを切望していることが悩みの種だった。ケビンと妻は、子犬を飼うと「余分なお金がかかるので」、彼が新しい仕事に就くまで待たなくてはいけないとローズに言い聞かせていた。ケビンは「犬を連れている人を外で見かけると、ローズが言うんです。『私もペットを飼うんだ。パパのお仕事が決まったら、すぐにね』って」と言った。ケビンは、しかるべき物を子どもにあてがうという父親の務めを果たせていないと感じていた。「それでますます、仕事探しに身が入りましたが」とすまなそうに言った。

 女性は、子どもを養うことについて、このような強い罪悪感は抱いていなかった。たとえばグレースは失業前、世帯年収の半分を稼いでいたが、失業による物質面の変化については、極めて冷静で現実的だった。彼女は節約のためにリサイクルショップで買い物をするようになった。「子どものためのクリスマスの買い物は、半分くらい、リサイクルショップで済ませました。おもちゃは中古といえ、物はよいし、きちんとしています。ていねいに使用されていたというだけのことです」。実際、女性の失業者の多くは、失業したおかげで、念願だった子どもとの充実した時間を過ごせたと強調する。グレースの場合、娘たちを水泳やピクニック、動物園や博物館に連れて行くなどして、夏休みを過ごすことができた。

失業と親族関係

 失業後の難題の一つは、親族にどう知らせるかを決めることだ。一般論としては、失業したことを人に話すのは重要である。キャリアコーチも助言しているように、結局のところ、あなたが仕事を探しているとわかれば、力を貸してくれることがあるからだ。とはいえ、男性の失業者の家庭は強い恥の感覚を抱くことが多い。男性の失業者と配偶者は、きょうだいや親から同情されることを気にしていた。

 コニーは夫のスコットが失業した時、「きまりが悪く」「人から同情されたくなかった」という。エミリーも夫のブライアンが失業したことを「秘密」にしようとした。ところが、彼女の実家の親族と休暇で出かけた時、「ブライアンがみんなの前で口を滑らせてしまった」ため、その思惑は頓挫した。「みんなに言えば、たちまち注目の的になってしまいます」とエミリーは言う。

 こうした懸念があるとはいえ、調査の参加者はやがて親族に、とりわけ親に失業したことを打ち明けていた。実際、親は失業者と家族がこの状況を乗り切るために重要な役割を果たしていた。コニーとスコットは子どもたちにお金のかかるクリスマスプレゼントを与えられないことが悩みだったが、結局、悩む必要はなかった。クリスマスの後、コニーは娘が「ほしいものをすべて手に入れたんです」と興奮気味に話してくれた。特に頭痛の種だった高価なアグのシューズは、「実家の母がプレゼントしてくれた」のだった。

 一方、女性が失業した場合、家族はそのように失業を隠そうとはしなかった。女性の失業は、緊急に対処すべき重大な問題とはとらえられていない。むしろ、家族は女性の収入がなくても暮らしていけると主張した。そのため、失業したことを親族に「告げる」のは大きな問題ではなく、通常の話だった。これらの家族も親族からかなりの経済的支援を受けていた。そして、そのお金は女性がより長く家で過ごせるようにするために使われていたのである。

 ジュリアの例を見てみよう。最初にインタビューした時、ジュリアは仕事を探していて、また働くつもりだった。何カ月か経って再びインタビューした時、彼女は計画を変更していた。「義母は夫が子どもの頃に専業主婦だったので、私にもぜひ子どものために家にいてほしいと言うのです」。義母はジュリアが家にいられるようにするには、お金がどれくらい必要かと聞いてきた。「そこで、必要な金額を伝えたら、義母は家に帰って義父と相談し、『いいでしょう』と言いました」。ジュリアは、さらに多くの時間を息子と過ごせるように物的リソースを提供してくれた義母に感謝している。