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失業は本人とその周囲にどのような影響を与えるのか
企業はしばしばレイオフ(一時解雇)を、収益向上の手段として用いる。しかし、日常的なビジネス慣行としてのレイオフは、仕事を失う人にとってとてつもなく大きな打撃となる。
40代後半のロバート(本稿の人名はすべて仮名)は、レイオフされるまでは数十万ドルを稼ぐ高給取りだった。筆者がインタビューしたのは、失業から1年近く経った頃だった。「失業してからは、軽蔑されることに過敏になった気がします。誰からも評価されず尊敬もされていない。だってご覧の通り、誰からも求められていないのですから」。彼は少し間を置いて、「いつも葛藤しているのです。 毎日毎日、アイデンティティの問題で」と強調した。
ロバートは、筆者がインタビューした数十人の男女の失業者の一人だ。彼らはみんな、有数の「よい仕事」に就いていた。安定していて、かなり長期間働くことができ、勤務時間は規則正しく、確定拠出年金のような福利厚生もある。こうした仕事にはマーケティング、プロジェクトマネジメント、金融業などが含まれている。
筆者は2013年から2016年にかけて、米国における専門職の失業者にインタビューをしたが、彼らにはある共通点があった。最低でも4年制大学を卒業しているということだ。調査のパラメーターの一部として、全員が異性と結婚し、扶養する子どもがいた。ほとんどの場合、配偶者は職に就いていた。彼らはかなり裕福で、夫婦ともに就労していた時の世帯収入は、全国平均の3~4倍だった。このサンプルの参加者はほとんどが白人だったが、褐色の肌の人やアラブ系、黒人も含まれている。失業期間の中央値は、男性と女性でそれぞれ6カ月と8カ月だった。筆者がこうしたパラメーターを設定したのは、男性が失業した家庭と女性が失業した家庭では、失業の意味や体験がどう違うかを比較するためである。
また、本人とは別に配偶者にもインタビューをし、一部のケースでは子どもとも話をした。数人の参加者については、彼らの生活をより深く理解するために、数週間、家庭に出入りして一緒に時間を過ごした。
調査の結果、失業して自尊心の維持に苦しむのは、特に男性に顕著であることがわかった。日常会話でとげとげしくなることもあり、話題が職探しに向かっている時がそうだった。だが、女性の場合はまったく違った。身近な人々はたいてい、彼女たちの職探しをほとんど緊急性がないものと見なしており、彼女たちは専業主婦として過ごすことに満足しているはずだと推測していた。
レイオフは、銀行業などの分野では年中行事のようなものだが、最近ではテクノロジー分野で、グーグルのように一見びくともしなさそうな企業にもろさが露呈している。レイオフがいつ、どのような形で起きたとしても、失業が人にとって何を意味し、人間関係に何が起きるのかを理解することは重要である。その重要度は、経済的打撃やキャリアの挫折を理解することと同水準だ。失業は本人にも、身近な大切な人々にも、犠牲を払わせるが、その犠牲は必ずしも全員に平等ではない。それどころか、既婚の男女はレイオフされた後、往々にして、まったく違う体験をするのである。
本稿では、失業が婚姻関係、親子関係、親族関係という3つの関係にどのような影響を与えるかに注目する。そして失業によって伝統的な性役割(ジェンダーロール)がいっそう顕在化することを、調査に基づいて説明していく。これを理解すると、あなたが失業した時に人間関係の問題を乗り越えやすくなり、最も身近な人々にも、あなたの人生とアイデンティティの大きな変化に内在する感情や気持ちを理解してもらえるだろう。また、レイオフが起きた時のジェンダーのステレオタイプの圧力を、社会が軽減する方法についても指摘したい。