家庭や社会が失業者をよりよく支えるには

 筆者の調査は、レイオフが既婚の男女の生活にそれぞれ異なる影響を与えること、そしてその影響は、しばしばジェンダーのステレオタイプや規範を強化するような形になることを明らかにした。家庭がレイオフによる感情的な痛手によりよく対処できるようになるためには、2つの面で変化が必要である。一つは失業に対する社会のとらえ方、もう一つは失業者に対する政府の支援である。これらが変化すると、固定的な性役割の定義に沿うことなく、レイオフされた家族を支援することができるだろう。

失業とスティグマを切り離す

 米国ではレイオフはまったく珍しくない体験である。とはいえ失業は、特に男性にとって不名誉なことである。男性は失業すると、夫や父親として家族を養う役割を担えていないと感じる。妻もまた、同様に感じる。

 これに対処するには、失業についての認識を、雇用が不安定で不確実な現代の状況に沿って更新する必要がある。そのためには、失業者であることが怠惰や不道徳と同一視されないように文化をシフトさせることが必要となる。社会政策もこの文化的なシフトに一役買うことができる。たとえば、失業手当を十二分に提供することは、今日の不安定な雇用状況を認識し、説明する助けになるだろう。

 男性的であることについての文化的期待が従来と変わらず、家族を経済的に支えることが夫や父親という男性の役割と切り離せないものであるため、失業した男性は恥とスティグマ(負の烙印)を強く感じる。現実には、いまや女性が世帯収入に大きく貢献しているにもかかわらず、男性が一家の稼ぎ手であるべきという文化的期待は変わっていない。この期待が根強いため、男性が配偶者よりもずっと稼ぎが少ない、または失業している家庭は離婚のリスクが高くなる。何より重要なのは、夫や父親の家庭への貢献に対する期待と、就労状況を切り離すことである。今日の雇用環境では、このような時代遅れの家族構成は通用しない。

性別と有給・無給の仕事の区別を切り離す

 男性の職探しを重視する傾向は、性役割をめぐる広範な文化的期待が家庭レベルにまで浸透した一例である。職探しに過度に集中するのではなく、子どもの世話にも目を向ければ、男性にとって息抜きとなり、お金以外にも提供できるものがあることを実感できるかもしれない。これは社会学者ミラ・コマロフスキーによる世界恐慌の研究で明らかになった古いが、いまなお通用する教訓である。コマロフスキーは、失業しても子どもの世話をして家庭に貢献した男性は、家族を養っているという意識が保たれていることに気づいた。対照的に、まったく家事をしないで新しい仕事をただ待っていた男性は、深い屈辱感を抱き、自意識が完全に傷ついていた。

 女性の職探しがほとんど注目されないことは、男性が稼ぎ、女性は家族の世話をするという文化的期待の裏返しである。最終的には、女性は家族の世話のみに力をそそぐべきという前提も変えなくてはならない。さらに、失業中の女性には、この話題について話し合うことや、職探しに関するサポートが必要である。女性は家族の世話に専念することで満足するという思い込みは、無意識のうちに、女性のキャリアについて話し合う機会を閉ざしているのかもしれない。

 子どもを預けることができる場所を、手頃で利用しやすくするといった社会政策も、ここでは大いに効果を発揮する。米国においてこの問題に関する十分な政策が欠けている状況は、育児は母親がすべきという暗黙の了解によって後押しされている。この認識は多くの家庭の現実にそぐわない。また、男性を一家の稼ぎ手という役割に、女性を家族の世話という役割に、縛りつけているのである。

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 自尊心の問題、そして、配偶者であるとは、親であるとはどういうことかという問題は、失業すると顕在化する。しかし、こうした不安は避けられないものではない。文化的規範が変化し、職を失った人のニーズや不安にしっかりと耳を傾けるようになれば、失業体験の悪影響は緩和できるだろう。


"Research: How Losing a High-Paying Job Affects Family Relationships," HBR.org, February 03, 2023.