3. 戦略ストーリーを記す

 ストーリーには、明確な始まりと中身と終わりがなくてはならない。戦略にも同じことが言える。つまり、戦略は過去と現在と未来を描き出すものであるべきなのだ。冒頭で紹介したWCSの戦略は、それをみごとに実践している。具体的に見てみよう。

・過去:2022年、象牙目当てで密猟業者に殺されたゾウは3万5000頭に上りました。
・現在:いま極めて大きな危機が起きているのです。
・未来:しかし、シンプルな3段階の戦略により、ゾウたちを救うことができます。それは、殺害をなくすこと、密売をなくすこと、需要をなくすことです。

 前述の観察、理解、ビジョンに関する問いに答えることを通じて、過去と現在と未来を結びつけて戦略ストーリーに織り込むことができる。こうして、いまあなたの会社が何を行っていて、どのような変化を起こす必要があり、未来にどのような行動を取るのかを描き出す物語が生まれる。

4. ストーリーをテストする

 戦略ストーリーをテストする際は、それを理解して実行に移す役割を担う社内の人々と、それを支援して受け入れる必要がある社外の取引先やその他のステークホルダーたちに対して、語ってみるべきだ。WCSの場合は、フルタイムのコミュニケーション専門家を雇い、戦略を個々のステークホルダーに合わせたストーリーに転換し、それぞれのストーリーを表現する動画・音声コンテンツも用意している。それに加えて、ストーリーを大々的に発表する前にテストすることも怠ってはならない。

 ストーリーをテストする際には、よくある落とし穴にはまらないように、以下の問いに率直に答えよう。そのストーリーは理解しやすいか。聞き手を引き込めるか。聞き手の行動の背中を押せるか。誰が何をすべきかがはっきりしているか。

5. ストーリーを語る

 最後のステップは、ストーリーを語るための準備をすることだ。重要な細部を割愛せず、聞き手を行動に突き動かす力を持たせつつも、中核的なメッセージに絞り込むことが重要だ。

 WCSは、ゾウの密猟に関するキャンペーンをステークホルダーに向けて積極的に展開し、各国政府へのロビー活動を実行して、象牙取引を禁止する法律をつくらせることに成功した。この成功を支えたのは、ゾウの密猟問題に対する人々の意識が明らかに高まったこと、そして、資金集めのキャンペーンが大々的に行われたことだった。

 あなたの会社の戦略は、5分以内で説明し、聞き手に理解してもらえるものになっているだろうか。すべてのことに触れようとするのではなく、いくつかの中心的なテーマに絞り込むことはできないか。実際には、戦略であらゆることに触れようとしすぎているケースが少なくない。

 また、自社の戦略ストーリーが単に理解されているだけでなく、戦略の実行を担う一人ひとりがそれを記憶し、行動の指針として尊重しているかどうかも確認しよう。そして、ストーリーを何度も繰り返し語り、話し合うことも忘れてはならない。年に一度語るだけでは十分でないのだ。

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 戦略立案において文脈と意図を結びつける最もよい方法は、ストーリーを用いることだ。私たちが物事を理解し大切にするには、ストーリーが欠かせないからだ。

 よいストーリーは、語り手と聞き手の両方をより賢くする力を持っている。ストーリーという形で伝えられることにより、味気のない事実と情報が、自社の現状と目指すべき目標を人々が共有するメンタルモデルに変わる。

 みんなが共有できて、変化する余地のあるメンタルモデルになるような戦略ストーリーのつくり方を知っていれば、その恩恵は、戦略の実行が改善されることだけに留まらない。その会社における学習のペースも大幅に向上する。変化のペースが速い今日の世界では、素早く学習できることは、競争力の重要な源泉になる可能性がある。

【米国版編集部注】:環境保護団体もこの取り組みに参加していたことを明示するために、英語版の記事をウェブサイトに公開した後、このセンテンスの表現を修正した(2023年2月15日)


"Your Strategy Needs a Story," HBR.org, January 15, 2023.