無形資産に投資する

 先進企業はテクノロジー投資だけでなく、R&Dや知的財産、そして人材など、補完的な無形資産にも投資する。筆者らの研究では、先進企業の無形資産への投資額は、それ以外の企業の2.6倍にも達する。

 これらの企業の多くは、長期的な視点に立つことを非常に重視している。こうした投資は、生産性のJカーブを生み出す可能性が高い。つまり初期の投資効果は小さいが、急速に膨らんで、長期的に大きな価値を生み出す可能性がある。

未来に対応できる労働力を構築する

 先進企業は、最高の人材を引き寄せるか、既存の従業員のスキルアップに投資することにより、テクノロジーを最大限に活かすのに必要なスキルを持つ人材を多数確保している。

 複雑な組織再編を成功させるためには、現場を担う有能な人材とテクノロジーに詳しいエグゼクティブの両方が必要だ。人材獲得競争に勝利するリーダーは、従業員経験の重要性を理解しており、OJTに投資し、子育て中の従業員や高齢の従業員が会社に留まりやすいように政策を拡大している。

システム思考のアプローチを採用する

 先進企業は、一般的にシステム思考を持っており、新しい市場へのアクセスや、ステークホルダーとの創造的なコラボレーションの機会に目を配っている。

 好業績の企業は、グローバルなバリューチェーンとのつながりが強いことが多く、それがグローバルな市場やアイデア、人材へのアクセスをもたらしてくれる。また、サプライヤーや顧客と協力して新たなエコシステムを構築し、集積効果を利用して共有の価値を生み出す。また、公共部門と密接に連携する機会を探っており、スキルの高い人材や物理的なインフラにおける課題解決を図る。

米国の新しい生産性のチャンピオン

 こうした教訓を適用するチャンスは、あらゆる規模・形態の企業に大きく広がっている。先進企業の多くは、筆者らがチタン経済と呼ぶものの一部を成す。すなわち、小規模で、未上場の製造企業が、その国で最も急速に成長し、最大の収益性の高い企業のグループにしばしば食い込んでいる。このような企業は、大都市ではない街を拠点にしていることが多く、田舎にあることさえある。そして、さまざまな業種を超えて存在する。

 たとえば、業務用食材卸業者のドット・フーズは、人口2006人のイリノイ州マウントスターリングに本社がある。同社において、すべては従業員から始まる。「我が社の取扱量は桁外れに大きく、人手が足りない……。たいてい500人は不足している」と、ジョー・トレーシーCEOは語る。

 同社で働きたいと思う人を引き寄せるために、ドットはシフト表を変更して、従業員がより柔軟に休みを取れるようにした。また、誰もやりたがらない仕事(夜勤時に商品を冷凍室に運び込む作業など)は、自動化するために投資した。オペレーション全体にテクノロジーを取り入れるとともに、こうした装置の操作方法を従業員に教えてきた。ロジスティックスと高度なアナリティクスを統合して、顧客が希望する商品をできるだけ早く受け取れるようにしたのだ。

 さらに、農産品の生産者と卸業者や消費者をつなぐプラットフォーム「ショップヒーロー」を買収して、顧客が動画や写真を使って、ローカルブランドのショッピングサイトを構築できるようにした。同社はいま、米国最大の業務用食材卸業者となり、1000のサプライヤーから12万5000種以上の品目を全米50州に届けている。

 ドットの成長の軌跡は、チタン経済企業に典型的なものだ。そして、ほかの企業にも、そこに加わるチャンスが十分にある。最近のデータでは、平均すると、中小企業の生産性は大企業よりも低いことがわかった。だが、ニッチな製品やサービスを高価格帯で提供できる業種では、中小企業の生産性が大企業と同レベルの場合がある。こうしたデータは、自社を改善したいビジネスリーダーにとって大きな励みとなるはずだ。

 企業の運命は、規模や業種で決まるわけではない。もちろん、生鮮食料品店の店主が、何かの魔法によって、急にソフトウェアメーカーのような高利益率を出せるようになるわけではない。それでも、ほとんどの企業は、先進企業に近いレベルまで生産性を押し上げることができる。

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 最終的に、米国企業の生産性の伸びを、第2次大戦以降の長期的なトレンドに戻し、10兆ドルの累積GDPを実現するためには、企業の戦略や経営を改革して生産性を高めなければならない。生産性の格差は、ビジネスリーダーにとってみずからの野心を高める十分な動機になるはずだ。そしていま、彼らの働きが、究極的に米国の繁栄とウェルビーイングにも大きな違いをもたらすことは明らかである。

【注】
ドット・フーズが全米最大の食品流通業者であることを明確にするため、最初に掲載した英語版記事の記述を修正した。(2023年2月21日)

"What the Most Productive Companies Do Differently," HBR.org, February 16, 2023.