審査が行われるすべての場所に人員を配置する

 ほとんどの大手上場企業はすでに、ワシントンに直接、あるいは業界団体を通じて、法的代理人を置いている。しかし、ブリュッセルには配置しているだろうか。日本や韓国もグローバル企業への監視を強化しており、EU離脱後の英国も同様だ。米金融界のアナリストが陥りがちな落とし穴だが、米政府だけがM&A(企業の合併・買収)の規制当局だと思い込んではいけない。

ディールの前に規制当局者と関係を構築する

 反トラスト法当局と初めて接触するのに最悪のタイミングは、ディールを公表した後だ。マイクロソフトをはじめとするテック企業は、世界中の規制当局の職員と(常勤職員とも任命職員とも)継続的な関係を築いている。それだけで規制当局の否定的な反応を回避できるわけではないだろうが、少なくとも、誰にどのように話をすればよいかがわかるだろう。

当局が懸念している問題の解決策としてディールを構成する

 現在の米政府はテクノロジー企業の新しい取引を認識する時、後から振り返ると阻止しておくべきだった過去のディールに照らし合わせている。可能であれば、自社の新しいディールを、市場で必要な規模を獲得する方法と位置づけるとよい。過去の規制当局の過ちを市場の力によって取り消せるような新しい戦力を当該ディールで構築する、と訴えるのである。たとえばマイクロソフトは、みずからをゲーム業界の負け組と位置づけて、ソニーや任天堂とより有効な競争をするためにアクティビジョンの存在が役に立つと、規制当局を説得しようとしている。

反トラスト法をめぐる敵と味方を見きわめる

 党派政治も関係はあるが、反トラスト法当局にとって最も重要なのは、市場の供給業者や流通業者の意見だ。あなたの会社が競争を阻害するボトルネックになってインセンティブを得ていると、サプライヤーや流通業界が懸念している場合、その懸念は新たなディールへの反対意見として影響力を持つ。サプライヤーも流通業界も何も案じていなければ、審査ははるかに迅速に終わるだろう。競合相手からの不満はむしろ、事実上の援軍になる。不満を訴えているということは、反トラスト法当局の望むような激しい競争に競合企業が抵抗していると見なされるからだ。

妥協の準備をする

 自社が譲歩を提示することによって、ディールを迅速に完了させつつ、戦略的目標を達成できるだろうか。複数の反トラスト法当局の優先順位を理解して、複数の執行機関を分断させて世論を有利に導くことができるような、先手を取る提案を考えよう。自主的な譲歩は、政府の法的論拠を弱めることもできる。裁判所は譲歩の条件がもたらす影響を鑑みて、ディールが消費者に及ぼす影響を判断する。

 米連邦政府がマイクロソフトやグーグル、メタ・プラットフォームズなどテクノロジー大手に焦点を当てていることは、反トラスト法の世界的な現状と規制当局同士の緊張の高まりについて、すべてのビジネスリーダーに無償の教訓を提供している。米国内外の規制改革のタイミングと向かう先は明確ではないかもしれないが、既存の法律を執行してその対象範囲を可能な限り広げる努力は、世界的な関心事となっている。それを無視するのは危険だ。


"Microsoft, Google, and a New Era of Antitrust" HBR.org, February 17, 2023.