DEIの取り組みを推進するには、心理的な脅威の把握が欠かせない
Mark Harris
サマリー:組織でDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の取り組みを進める際、内部からの抵抗が起こることは少なくない。特にマジョリティグループが抵抗した場合、どのように乗り越えるべきか。本稿では、抵... もっと見る抗をしている人々はDEIの取り組みに対して3種類の「脅威」を感じていると考察する。そしてそれらの抵抗を反映した行動にも種類があるが、種類ごとに抱えている脅威が異なる。したがって、脅威を緩和するための適切なアプローチを展開することで、抵抗を和らげることができると説く。 閉じる

DEIの取り組みに対する抵抗を乗り越える

 近年、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の取り組みは目覚ましく進展している。その努力を多くの人が歓迎する一方で、フロリダ州でロン・デサンティス知事が州立大学にDEIプログラムを導入しない方針を明らかにするなど、批判や抵抗もある。

 このようにメディアが注目するのはもっぱら外部の抵抗だが、多くの組織の内部でも、DEIの取り組みに対してリーダーが克服しなければならない抵抗が続いている。

 筆者らは人々が社会変革の取り組みに抵抗する理由と、その抵抗を克服する戦略について広範な研究を行ってきた。そして、変革をより効果的なものにするためには、なぜ変革に抵抗するのかを理解することが重要であるとわかった。DEIの取り組みはさまざまな抵抗を生み、それぞれに異なる戦略的な対応が必要になる。

 本稿では筆者たちの最新の心理学研究をもとに、異なる種類の抵抗の形を明らかにしながら、それらを助長する心理的な脅威について説明する。さらに、抵抗を乗り越えるためにどのような取り組みが必要かを考えていく。

心理的脅威

 DEIの取り組みは、組織の大きな変化を伴うことが多いため、多数派であることで利益を得てきたマジョリティグループの人々は特に、自分の組織での地位やリソースが脅かされるかもしれないという懸念を抱きやすい。この「地位の脅威」を抱く人は、ダイバーシティの取り組みをゼロサムの観点でとらえがちだ。機会や雇用、昇進の可能性など、マイノリティグループの人々が何らかの利益を得たら、マジョリティグループの人々が必ず損失を被ると考えるのだ。

 DEIの取り組みによって、自分の成果がスキルや資質ではなく、現在のグループの一員であることに結びついているという意味になるのではないかと、不安に思う人もいるだろう。これは「利益の脅威」で、有利なグループに属する人々が偏見や差別、不平等の存在を認識した時に、自分たちの成功が「説明できない」と感じるものだ。利益の脅威は、勤勉さや個人の能力を評価する価値観を強く支持している、マジョリティグループの人々の多くが抱く。また、DEIの取り組みが、昇進など通常は実績を評価される決定に強い影響を与える場合にも、利益の脅威がよく見られる。

 最後に、マジョリティグループの人々は「道徳の脅威」を感じる時もある。自分が恵まれていることを認識すると、不公平なシステムと自分自身を結びつけて、自分の道徳的なイメージが損なわれると考えるのだ。こうした感覚は、マジョリティグループの人々が平等という道徳的理想をふだんから意識している場合に、最もよく見られる。人は基本的に、自分は善良で道徳的な存在であると思いたいものだ。平等の理想にこだわる人は特に、DEIの取り組みにより、自分たちのグループがこの道徳的原則に違反していることを強調されると脅威を感じるかもしれない。

 このような脅威を経験したマジョリティグループの人々は、主に3つの方法で抵抗する。