AIは「リエンジニアリング」の力を解き放つ
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サマリー:人工知能(AI)はビジネスプロセスを再設計する。企業でリエンジニアリングの動きが改めて広がると筆者らは推察する。本稿はAIを活用したリエンジニアリングの事例を提示しながら、その手法を解説する。企業は各タス... もっと見るクに関して、必要性、頻度、実施者、そしてAIによる自動化を実装する場合は人間とAIにおけるタスク分担も決める必要がある。 閉じる

AIがビジネスプロセスを再設計する

 1990年代、ビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)が大流行した。企業はさまざまなエンド・トゥ・エンドのビジネスプロセスを抜本的に改革するために、エンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)システムやインターネットといった新しい技術を活用した。学界とコンサルティング業界のリエンジニアリング提唱者らに後押しされ、企業は受注から回収までの工程(O2C: order-to-cash)や、新製品の構想から商業化までの工程など、さまざまなプロセスを変革できると期待した。

 ところが、テクノロジーはたしかに重要なアップデートをもたらしたものの、導入しても大きな期待に応えられないことが多かった。たとえばSAPやオラクルなどの大規模なERPシステムは、データ交換のための便利なIT基盤を提供したが、非常に硬直的なプロセスを構築し、導入後は変更が難しかった。

 それ以降のプロセスマネジメントは、局所的なプロセスの漸進的な改善に留まるのが一般的であった。反復的なプロセスにはリーン生産方式やシックスシグマ、開発にはアジャイルやリーンスタートアップの手法などで、どれもテクノロジーによる支援は伴わなかった。

 現在、ある種のリエンジニアリングの概念が一部の企業で復活しつつあり、さらに多くの企業に広がることが見込まれる。これにはAIに関する深い認識と理解が必要となるだけでなく、ビジネスプロセスを「業務改善の仕組み」として新たにとらえることも求められる。

 AIが汎用技術として台頭するにつれて、リエンジニアリングの提唱者らが当初想定したようなビジネスプロセスの抜本的な再設計を、AIで実現できる可能性が高まっているように思われる(筆者らの一人ダベンポートも、初の著作をこのテーマで書いた)。

リエンジニアリングをアップデートする

 90年代にリエンジニアリングを後押ししたテクノロジーは、主にトランザクションとコミュニケーションに基づくものであり、組織内や組織間でのデータの効率的な入手と転送を可能にした。

 一方でAIは、より的確で迅速かつ自動的な意思決定を可能にする。基本的に、大組織で導入されるAIの大半は、予測や分類を行うために大規模なデータセットから学習し、企業がオペレーションの意思決定をより的確に行えるよう後押しする。オペレーションの意思決定が向上すれば、よりよい結果が生まれることで効率性が高まる。

 重要な違いとして、現在のAIシステムは真の汎用技術であり、生産の計画と管理だけでなく、視覚イメージの認識と検査、自律的オペレーション、新しいコンテンツの生成といった分野にも劇的な変化をもたらしている。

 AIの発展を加速させている技術は数十年前から存在するが、導入のコストが急激に下がった。かつてはデータサイエンティストのみの領域であった最新のAIベースのソリューションは、いまや「市販」されるまでに成熟し、技術的な参入障壁は大幅に下がっている。クラウドの普及、安価な帯域幅の増加、センサーのコスト低下によって演算コストが下がったことで、モデルによる予測を行うための費用が劇的に安くなった。

 AIベースの意思決定は、より広い意味の自動化にも採用されている。ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)などの技術は、ワークフローの構造化と、情報集約的なバックオフィスのプロセスの自動化に役立つ。RPAは人が登録した情報をベースにAIが作業を行うルールベースであるため、データに基づく意思決定を行う能力には限界がある。だが、機械学習と組み合わせた「インテリジェントなプロセス・オートメーション」であれば、より多様なタスクに対応できる。

 こうしたAI主導のリエンジニアリングは、すでに実践されている。銀行は、顧客への資産管理アドバイスを変革するためにAIを活用している。保険会社はAIを用いて、顧客のオンボーディングと引受業務を大幅に簡易化し、被保険者によって撮影された写真のディープラーニング分析を通じて、自動車と住宅の損害に対する賠償請求の見積もりを自動化している。

 工業企業は、メンテナンスとエンジニアリングのプロセスを再構築している。AIに関する膨大な研究はあるが、臨床への導入は極めて少ない医療分野でも、一部の国々ではAIベースの遠隔治療によって、診断と治療の新たな形態が生まれている。

 こうした活用法は、人々によるAIの使い方、業務の遂行方法、企業の組織編成のあり方に重要な影響を及ぼす。AI主導のリエンジニアリングによる潜在的なメリットを活かすため、企業は自社のビジネスをエンド・トゥ・エンドのプロセスという観点から見直し、それらをAIがいかに変革できるかを慎重に考えなくてはならない。基本的には、オペレーションに関する意思決定の支援に使えるパターンを抽出するため、十分なデータが生成されている場所を探索する必要がある。