
感情をコントロールする
デジタルバンキング会社のCOOであるジュードは、誰からも好かれるタイプのリーダーだった。親切で、寛容で、誰とでもすぐ打ち解けて、チームの信頼を得るのがうまかった。ただ、感情に流されやすいところがあり(筆者が「センシティブ・ストライバー」と呼ぶタイプだ)、またその感情を露骨に表してしまうことがよくあった。仕事中でも、感情を隠すのが難しく、表情に出てしまうのだ。それが自分ためにも、相手のためにもよくないとわかっていても。
クライアントとの緊迫したミーティングで、彼の感情と、相手を気遣う性格が悪目立ちしてしまったこともあるという。このクライアントとジュードの現場担当チームの間でトラブルが相次いだため、ジュードがCOOとして介入を求められたミーティングだった。プロジェクトを軌道に戻すためのプランをジュードが説明し始めたところ、クライアントが口をはさみ、あれこれ懸念や苦情をぶつけてきた。ジュードは礼儀正しく対応し、リーダーらしく振る舞おうとしたが、声が震え、目が泳ぎ、しっかりした回答や強力な反論をするのに苦労した。自分が冷静さを失ったことを恥ずかしく思ったジュードは、リーダーである以上、これからもポーカーフェイスを保たなければいけない場面があり、それは避けられないと考えた。
筆者は、感受性の強いプロフェッショナルたちのコーチとして、リーダーに周囲の状況を素早く察し、適応する能力があることが、いかに部下たちのやる気を高め、信頼を得て、前向きな職場環境の構築につながるかを見てきた。感情がリーダーシップの重要なツールであることは間違いない。リーダーの喜びや熱意、興奮は、部下たちのモチベーションを高めるし、チームの仲間意識や絆はコラボレーションを後押しする。
だが、こうした豊かな感情を持つプロフェッショナルが、「どうすればポーカーフェイスを保てるか」と尋ねてくることもよくある。スキルが高いリーダーは、自分の感情を表に出すことが、多くの場合プラスになると気づいているが、ジュードが身をもって知ったように、露骨な感情を示すことが逆効果をもたらす場面もあるのは間違いない。重要な会議であれ、人事考課であれ、職場での小さなきっかけであれ、自分の反応を意識的かつ慎重にコントロールすることが非常に難しい時がある。
ポーカーフェイスを保つことは、感情そのものを抑え込んだり、嘘をついたりすることを意味しない。むしろ、自分の表情やボディランゲージに気づき、それを戦略的に使うことで、感情を調整することを意味する。以下でその方法を紹介しよう。
状況を選ぶ
ポーカーフェイスは、すべての状況に適しているわけではないし、常時取るべきコミュニケーション方法でもない。あまりに頻繁に、あまりに多くを隠すと、信頼できない、あるいは能力が低い、好ましくない人物に見えてしまう。リーダーシップの発揮という意味では、あなたのチームや同僚、顧客が心理的安全性を感じて、それぞれに意思決定を下す際、リーダーの反応を見ることはよくある。では、いつポーカーフェイスが必要になるのか。以下のことを自問してみよう。
・感情を表に出すことが、自分の目標の助けになるか、障害になるか。人間関係や信頼関係を築きたい時は、ポーカーフェイスは不誠実や無関心のしるしと受け止められかねない。一方、何かの交渉では、ポーカーフェイスがあなたの立場を守る助けになるかもしれない。
・このやり取りにおける自分の役割は何か。ミーティングをリードする役割を担っている時は、自信や自己主張を明確に示したいかもしれない。ミーティングの一出席者にすぎないなら、オープンで受容性のあることを示したいかもしれない。
・ここで弱さを見せることは適切か。その状況において、自分を見せないアプローチが必要か、それとも自分をオープンに表現することが適切か。一般的なアプローチや、自分らしさに沿って考えてみよう。
・コミュニケーションの相手や組織の規範はどうなっているか。感情表現に関する期待は、文化や集団によって異なる。それに応じて自分の行動を調整しよう。