雇用主が退社する従業員を支援する方法
こうした発見から得られる教訓は、雇用主が401kへの拠出を減らすべき、ということではない。雇用主は社会的責任として、会社を去る従業員にも注意を払うべき、ということだ。
従業員の退職金に気前よく拠出する企業の狙いが、従業員に将来にわたる経済的安定を提供することであるのは明らかである。そうした企業はまた、自社で働く従業員の多くが最終的に引退するまでに何度も転職することも理解している。つまり、積立金の引き出しに無関心な雇用主は、従業員の未来に投資しながら、それを損なっているのである。現状では、積立金の引き出しは最も抵抗感の少ない方法だ。人々がそれを選ぶのは、手軽にできるからであって、それが賢明な方法だからではない。
従業員の退職後の安定を劇的に向上させる対策を、彼らに負担をかけることなく実施する方法もある。たとえば、緊急用の貯蓄が不足していると、積立金を引き出す確率が高まるという認識が広がりつつある。2022年12月に成立した新法セキュア2.0は、退職金を切り崩すことなく、年間最大2500ドルを緊急支出の支払いに自動的に回せるようにする仕組みである。新入社員が入社する際や退職金について説明する際に、雇用主がこうした口座の利用を促し、将来、転職する際に積立金を引き出すことの危険性を知らせておくとよい。
また、雇用主が金融サービス企業と契約して、転職時に退職積立金を守るための金融教育をウェブ上で提供したり、金融アドバイザーへの相談費用を負担するという方法もある。同様に、雇用主が金融サービス企業に利用料を支払って、各従業員に退職前ミーティングを実施してもらい、現行の退職金プランに資産を残すべきか、次の勤務先のプランに資産を移すべきか、あるいは極めて低コストのRoth IRAインデックスファンドに残高を自動的に移すべきかの検討材料を提供するのもよい。
これらの選択肢はいずれも、従業員の退職金を守り、10%のペナルティを回避できる手法であり、しかも、積立金を引き出すよりも簡単なはずだ。
同様に、筆者らは企業に対し、口座残高の少ない従業員の資産を自動的に引き出す措置を停止するよう推奨している。このプロセスを容易にする緊急的な手法として、たとえばリタイアメント・クリアリングハウスが新たに導入した「オート・ポータビリティ」という取り組みが挙げられる。現在の雇用主と次の雇用主の退職金プランがいずれもバンガードやアライト、フィデリティなどの大手金融サービス企業の管轄であれば、5000ドル未満の残高を自動的に移行できるという措置である。
転職時の退職金の流出問題を業界が解決できなければ、雇用主にとっても金融サービス企業にとっても好ましくない事態が起きてしまうかもしれない。政府が介入して、オーストラリアをはじめ世界各国で見られるような新制度を創設する可能性もありうる。オーストラリアでは、すべての企業が同じ額を拠出し、すべての従業員も同じ額を拠出しなければならない。転職しても口座は従業員の手元に残り、失業期間が長期間続かない限り、積立金を引き出すことはできない。
このシナリオよりも実現の可能性が高いのは、企業による問題解決だと筆者らは考えている。雇用主が金融サービス企業と協力して小さな変化を積み重ね、従業員の退職準備に劇的な変化を起こしていく、というシナリオである。そうすることで、激しい人材獲得競争にさらされている雇用主も、この喫緊の社会問題を率先して解決したい金融サービス企業も多大な恩恵を得られるだろう。
"Too Many Employees Cash Out Their 401ks When Leaving a Job," HBR.org, March 07, 2023.