企業が顧客との最初のコンタクトでつまずく理由の一つは、顧客との対話の「意図」を十分に理解していないからで、これが顧客サービスの低下につながり、最悪の場合は解約に至る。最近は対面だけでなく、オンラインでの顧客との接点が大量かつ多様になり、ゲームやソーシャルメディアアプリ経由の顧客からの期待も考えると、優れたCXの提供は特に難しい。
これからのCXのカギは、データを実用的なインサイトに変える力だ。一連の調査対象のうち、18%の先進的な企業は、完全に統合されたエクスペリエンスモデルをもとに、将来を予測する積極的なサポートを可能にしつつ、従業員チーム全体でインサイトやデータを共有できるようにしている。顧客とのコンタクトの段階で何かうまくいかないことが起きれば、CEOにもそれを共有する。こうした組織では顧客の行動やニーズの予測に役立つAIの活用も進んでおり、33%が自分たちはこの分野で「最大限に機能している」と考えているのに対し、後れを取っている組織で同じように考えているのはわずか5%である。
対話型のチャットボットや、顧客のアカウントに関連することを(決められた範囲内で)自律的に判断するシステムなど、CXを強化するAIアプリケーションは多岐にわたる。それらを駆使することで、カスタマーと接する担当者はより高度なタスクに集中できる。高度なタスクとはすなわち、製品の不具合やサービスの欠陥についてのフィードバックという重要な情報を事業部門と一貫して共有することである。ここからが、経営幹部の出番である。現場の最前線から上がってきた情報に製品開発、財務、ロジスティックスなどすべての関係者が確実にアクセスし、問題に対処できるように組織を適切に再構成することで、消費者からつくり手へと常にフィードバックが届くような仕組みを構築する。それができるのは経営幹部だけなのである。
たとえば、一定額の返金で特定の不満が解決できるなら、そこに人間が介在する必要はない。自動的に処理して即座に返金を承認すればよい。顧客満足度が低下する大きな理由は、問題を解決するまでのプロセスが長く、時間がかかることだ。AIのシステムやチャットボットで解決できない問題ならば当然、「折り返しご連絡します」という不可解なメッセージで対処するのではなく、状況を改善できる担当者へと即座につなげるべきである。
ウーバーやリフトに対して配車に関する揉め事を連絡すると、自動化されたチャットボットが問題解決を試み、実際に多くのユーザーに対して最初の連絡から数分以内に解決策を提示しており、ブランドの信頼感を高めている。問い合わせや問題の迅速な解決はブランドを構築し、不満を覚えた顧客を呼び戻す努力よりはるかにコストがかからない。
ここでもコンタクトセンターの担当者やチャットボットの管理者だけでなく、企業全体がCXのプロセスに関与することが重要になる。優れたCXに適した、オープンで前向きな文化を持つ企業は、先のNICEの調査ではわずか18%だった。予測に基づく積極的なサポートを可能にする、完全に統合されたエクスペリエンスモデルや、従業員チーム全体でインサイトやデータを共有することに重点を置いた企業文化は、組織の上層から現場まで、あらゆるレベルで顧客に焦点を合わせている。さらに、CXの卓越性だけでなく、業務の効率も追求している。CXの担当者が十分な権限を与えられ、データ解析やAIに基づくツール、トレーニング、コーチングにリアルタイムでアクセスできるのだ。
企業は、組織のあらゆるレベルで顧客に焦点を合わせ、既知および予期された問題と起こりうる未知の問題の両方に注目する必要がある。成熟していない組織は特に、顧客と現場でどのような問題に直面するかわからないため、既知の問題だけに取り組むようなスクリプトは逆効果になりかねない。さらに、CXだけでなく事業の効率化にも取り組む必要がある。AIや解析システムから得られる知見に基づいた行動が取れるよう、必要なツールやトレーニングを従業員に提供するのである。