
顧客の立場で自社のCXを評価しているか
言わば消費者の第六感だ。売り場で、電話で、オンラインで、購入や質問をするために企業とつながる時、人はその企業の環境を直感的に察する。顧客や地域社会を大切にする革新的な職場なのか、それとも顧客を尊重せず、企業文化が停滞しているひどい職場なのか、感覚的にわかるのだ。もちろん、直感など必要なく、企業文化がひと目でわかる場合もある。従業員が見るからに無気力で正しい情報を持っていない、オンラインのインターフェースがわかりにくいといったケースである。それがカスタマーエクスペリエンス(CX)だ。
CXは長年、カスタマーサービス担当者が最初の責任を負うと考えられてきた。最近はデジタルやバーチャルのインターフェースをデザインするテクノロジー担当者の責務と見なされている。いずれにせよ、経営幹部や意思決定者は主体的に関わってこなかった。CXの取り組みに十分な注意を払わず、よくて当然のものと考えているのである。多くのリーダーは自社のCXがいかに優れているか(あるいは劣っているか)を経験したことがなく、優れているか、少なくとも合格点だと思い込んでいる。
このように自社のCXに対して距離を置くことは、もう許されない。まず、CXとは、洗練されたユーザーインターフェイスを提示したり、カスタマーサービスのスタッフに最新かつ最高の分析プラットフォームを提供したりする以上のものであることを認識しなければならない。CXとは取引やエンゲージメントの仕組みだけでなく、その企業と接した時間に対する顧客の感情にも焦点を当てた包括的なものだ。その感情とは驚きなのか、喜び、失望、あるいは不満なのだろうか。顧客はこの会社と取引することに不満を感じていないだろうか。
多くの組織では、階層的なマネジメント構造とサイロ化された情報源、およびレベルの低いトレーニングや不十分なキャリア開発が、レベルの低いCXを生んでいる。そこで経営幹部と管理職は、顧客のニーズにより敏感に反応し、より共感する組織を構築する必要がある。
いまは顧客の知覚価値に基づいて成長と収益が変化する時代であり、価値の高いCXの提供は企業にとって戦略的な関心事だ。特に、顧客とのやり取りがデジタル化され、顧客との関わりがコモディティ化して非人間的なものになるにつれて、価値の高いCXの提供がよりいっそうの重みを持つ。
優れたCXを実現するために、組織をまとめる全社的なビジョンを示し、それを阻む障害物を取り除くことができるのは、ビジネスリーダーだけだ。人、プロセス、テクノロジーがCXを提供する方法について、ビジネスリーダーには次のような新しい考え方が必要になる。
・優れたCXの支援もしくは実現のために、全従業員および管理職のコミットメントを確保すると同時に、トレーニングを実施し、必要に応じてツールや顧客知識へのアクセスを提供する。
・共感と、優れた成果への揺るぎないコミットメントに報いる寛容な企業文化を構築する。
・人間の能力を補う人工知能(AI)ツールを活用した、高度につながり、統合されたインテリジェントなインフラを用意する。
多くの組織は、これらの領域で取り組みが不十分である。経営をつかさどるCレベルのエグゼクティブ300人を対象とした最近の調査では、積極的なデジタルでの対話、オンラインおよびモバイルのセルフサービス、チャットボットによるやり取りなど、高品質のデジタル体験を自社が顧客に提供できていると確信している人はわずか半分だった。筆者のジョー・マッケンドリックがインフォメーション・トゥデイとNICEの依頼で実施したこの調査では、過半数(59%)の人が自社顧客のファーストコンタクト・リゾリューション(FCR:初回解決率)を「悪い」または「十分ではない」と評価している。