テクノロジーの進化が今日のデジタルファーストでのCXを再構築しているとはいえ、重要なのはどこで最もインパクトを与えるか、ビジネスリーダーがチャンスをどう活用できるかである。AIは、インテリジェントなバーチャルアシスタント、センチメント分析、顧客の履歴と意図の分析など、優れたCXを提供するための選択肢を与えてくれる。

 AIを用いることで、特定の顧客に関する膨大なデータを分析できるだけではない。顧客がカスタマーサポートに連絡した最新の問題や、そこでの提案や会話の内容をAIは理解して、顧客やその問題に対処している従業員に直接、円満な解決策を提案できるだろう。AIがなければ、問題を理解して、顧客が納得するような解決策を考えるために、文字通り数分から数時間かかるかもしれない。

 経営幹部はCXに関するインサイトを磨いて、高度に統合された先進的なエクスペリエンスを形にすることができる。よりよいエクスペリエンスを提供するには次のような方法がある。

 顧客重視の文化を構築する。多くの企業がこのような取り組みを行っていると主張し、あるいは目指しているが、ビジョンと現場の現実はかけ離れているものだ。経営幹部と管理職には、CXに技術や予算、リソース、トレーニングをより多く投じるだけでなく、会社が従業員やコミュニティにどのように接したいか、従業員自身がどうしたいかというビジョンを共有することが必要になる。

 説明責任を求める一方で、優れたCXを戦略的に必要なものとして扱い、すべての従業員の仕事の重要な一部と見なす。前述のように、CXの課題は、コンタクトセンター、営業、ITの領域で完結していることだ。CXを「最高顧客責任者」「最高顧客経験責任者」など新しい正式な役職として確立させて、経営幹部に対して説明責任を負わせよう。企業のサイロを越えて取り組みを統一、または統合できる戦略家が説明責任を果たすことも重要だが、CXの責任と管理は、すべてのエグゼクティブ機能の一部に組み込まれる必要がある。CX担当という正式な職務をつくったとしても、従業員全員が最高顧客責任者として振る舞い、顧客に対して説明責任を果たさなけらばならない。

 AIおよび関連するデータ解析を駆使して顧客のニーズや嗜好を予測し、より深く理解する。高性能の解析ツールやプラットフォームは、今後のCXの核となるパーソナライゼーションや個別対応を大規模なスケールで展開することができる。AIは市場からの需要や顧客のニーズの一部を予測し、ときには顧客の問題を先回りして予見する。チャットボット、自然言語処理、感情分析、予測分析、セルフサービスツールの組み合わせは、CXを次のレベルに引き上げる。

 優れたCXのためにインセンティブを与える。報酬制度は、経営幹部の行動や意思決定を促す最も強力な動機付けの一つになる。多くの経営幹部にとって、報酬制度は特定の事業部門の業績や年間の成長に連動している。さらに、報酬や褒賞は、顧客満足度指数、カスタマー・エフォート・スコア(顧客努力指数)、ネット・プロモーター・スコア(顧客ロイヤルティを測る指標)など、従来の顧客サービス指標の狭義の側面と結びついている場合もあるだろう。CXは、デジタルのインターフェース、コンタクトセンターの従業員の対応、営業チームの統合、サービスのフォローアップなど、幅広い活動領域から生まれる。

 顧客の立場に身を置く。高性能のデータ解析と同じくらい有益なのが、人間の知性である。従来のカスタマーサービスの指標は、顧客エクスペリエンスについてある程度のインサイトをもたらすが、ストーリーの一部しか語っていない。あらゆる部門の経営幹部は折に触れて顧客と直接対話し、自社を通した経験の何を顧客が好み、何が好きではないかをより深く理解する必要がある。カスタマージャーニー(顧客がたどる一連の経験)を経営幹部みずからがたどることも重要になる。みずから製品やサービスを購入し、さまざまなチャネルを通じて外部から自社にコンタクトを取ることで、実際のCXを肌で感じるのである。

* * *

 カスタマーエクスペリエンスは、経営の意思決定の中心に据えられるべきである。優れたCXを提供するためには企業全体での取り組みが必要であり、事業の成功がかかっている前提でCXに注力して、優れたエクスペリエンスを実現させよう。実際、企業の成功はCXにかかっているのだから。


"Executives Need to Invest in Understanding the Customer Experience," HBR.org, March 08, 2023.