データとテクノロジーの役割
購買行動の変化は、データがカギを握ることを物語っている。特に次のような分野では、テクノロジーが大きな役割を果たす。
コンテンツマネジメント・システム
企業はチーフコンテンツオフィサー(CCO)を置いて、ブログやメールによるキャンペーン、ホワイトペーパーなど、見込み客をサイトに誘導して情報をダウンロードさせるような資料を設計する。これは、顧客の問題や機会に関する関連コンテンツが、顧客体験の探索と評価のきっかけになりうることを踏まえた方法だ。
ただし、こうしたコンテンツのうち推定で70%が、資料へのアクセスや整理が難しいために利用されることがなく、このアプローチで生まれたリード(製品に興味がある段階の見込み客)の大半は「リードのブラックホール」に消えると見られている。始まりがよければ終わりもよいといわれるが、多くの企業では、顧客との対話の最初の段階は緊張をはらんでいる。
この問題の解決の役に立つのが、セールスイネーブルメント(SE)・テクノロジーだ。ハイスポットやショーパッドなどのコンテンツ管理ツールは、コンテンツを整理して更新し、営業担当者が費やす時間など取引コストを削減して、異なるセグメント向けにコンテンツのパーソナライズを可能にする。
これらのツールの多くは、営業担当者がコンテンツにどのように関わったかについてリポートを作成し、どのような販促物や資料などがどのくらいの頻度で使われたか、担当者がコンテンツにどのくらい時間を費やしたかなどを示す。これらのデータを活用して、コンテンツの制作および発信に関する継続的な改善サイクルを構築できる。また、現場の担当者はこれらのツールを使って、顧客が利用したコンテンツを提示して追跡し、顧客体験の核となる行動をタイムリーかつ適切にフォローするための情報を得ることができる。
チャネルマネジメント・ソフトウェア
購買はいまや、顧客が流通チャネルで複数の接点に触れるプロセスになっている。したがって、説得力のある顧客体験を構築するには、一般的に、販売前と後でパートナーと協力する必要がある。パートナーがあなたの会社とやり取りしやすくしよう。
たとえば、仲介業者を通して販売する場合、彼らの関心を引いて製品にコミットしてもらうためには、摩擦が少なくてコミュニケーションを取りやすいことが、手数料と同じくらい重要になる。パートナーに製品を発送しても、効果的な販売に必要な資料を提供しないことも少なくない。その結果、販売コストが高くなり、実際に利用できる販売能力の割合が低くなって、顧客体験が損なわれる。
報告書やケーススタディ、オンラインのデモ、取引登録データなどの資料を提供するパートナー用サイトを構築する手段は、コストが下がって対象範囲が広がっている。パートナーはチャネルマーケティング・ソフトウェアを使って、販売者のコンテンツやメッセージング、需要創出に関する知識を、製品に関するカスタマーコンタクトや受注処理に活用できる。
音楽ストリーミングサービスのパンドラは、ステーション(インターネットラジオ局)の広告枠を地域の広告主や中小事業者、大企業に販売している。全米35都市に500人以上の営業担当者がいて、さまざまな企業や代理店に販売しており、多様なチャネルパートナーと連携している。見込み客の開拓から契約の締結、請求書の作成、販売後のサービスまで、顧客体験は複数の部門を横断するプロセスであり、異なる営業グループやチャネルへの引き継ぎもある。こうした状況が、行動のサイロ化と顧客の混乱を生む企業も多い。
しかし、パンドラでは、担当者がチャネルパートナーとともにクライアントに売り込みやキャンペーンを行う際に、テクノロジーが効果的に支援している。見込み客の情報だけでなく、マーケティングからの更新コンテンツ、営業とチャネルのやり取り、チャネルコミッションの支払いや請求情報もシステムに取り込まれている。
さらに、広告枠の販売では、注文は将来の特定の時間帯や放送局で実行されるようにカスタマイズされる。課金および販売手数料は、広告が配信された時に初めて発生する。パンドラのこのシステムは、購買者とチャネルの信頼を高めている。そして、顧客サービスやインセンティブの支払いが正しく行われたかどうかを確認する時間を、顧客に向けられるようにした。
顧客体験の測定と連携
改善には、顧客体験に関与する関係者や顧客接点の連携を促進するために利用できるフィードバックが必要だ。しかし、顧客満足度に関するフィードバックを得るための従来の調査方法には限界があり、オムニチャネルの購買の世界では誤解を招きやすい。アンケート調査は、行動ではなく態度や嗜好に関するデータを作成するためのもので、人間の発言と行動には違いがある。
たとえば、業界を問わず1000社以上を対象としたある調査では、最も重要な購買基準は価格と製品の機能という回答だった。しかし、その後の分析において、実際の購買行動では、サービスや販売時の体験のほうが大きな意味を持つことを示唆していた。オンライン上のやり取りにも同じことがいえる。
テクノロジーは、より適切でタイムリーなフィードバックの提供を助ける。クアルトリクス、メダリア、インモーメントなどのプラットフォームは、従来の方法より迅速にフィードバックを収集する手段となっている。また、複数のアウトリーチ(メール、インバウンドマーケティング、コンテンツのダウンロードなど外部への働きかけ)からデータを取り込み、双方向のやり取りや、各リソースの費用対効果を特定しやすくするテクノロジーもある。
センターなどの企業が提供するツールは、見込み客を最初の関心から製品の配送まで追跡することができる。ゲットリブは、見込み客を生むプロセスを改善するために人工知能(AI)の予測アルゴリズムを使いながら追跡する。
インナービューが提供するインフロントというツールは、仲介業者を通して販売する企業に特に関連がある。インフロントの「ブランド・トランスファー・スコア」は、ブランドの意図する体験が流通パートナーの体験と一致するかどうかや、地理的条件や個人がブランドのアンバサダーとしてプラスかマイナスかを評価するのに役立ち、あらゆる変化の効果を追跡するための継続的なデータを提供する。
顧客との継続的な会話も、見過ごされがちだが、顧客体験を向上させるためのインサイトを与えてくれる源になる。いわゆる「会話型インテリジェンス」だ。コールマイナー、コーラス、ナイス、トークマップなどの企業は、リアルタイムの自然言語処理ツールを用いて、コールセンター、営業の会話、カスタマーサポートグループの通話録音、チャット記録、製品ドキュメントを取得して分析している。これらのテクノロジーは、顧客体験を決定する主な要因を常に把握しやすくする。
それと同じくらい重要なのは、ファーストパーティデータ(企業が第三者を介さずに自社で収集した顧客情報)が、エンジニアやブランドスローガンの担当者の声ではなく、「顧客の声」を顧客の言葉でとらえていることだ。プライバシーに関する規制の高まりや、アップルなどによる顧客データの制限により、こうした情報はますます貴重になっている。
これらの測定ツールは、満足や不満の根本的な原因を特定する手助けとなる。製品、サービスのレベル、販売店や小売店の所在地などチャネルの問題、ウェブサイト、あるいはこれらの要素の組み合わせによって、顧客の反応は左右されたのだろうか。こうした洞察を、支援するテクノロジーなしにやろうとするのは不必要な苦労だ。