
変化する購買者の意思決定までの流れ
過去半世紀にわたり、購買活動は見込み客を「認知」(Attention)から「興味」(Interest)、「欲求」(Desire)、「行動」(Action)へと導く階層として組み立てられてきた。このAIDAの法則とそのバリエーションは、ほとんどの企業において顧客獲得活動の基本になっている。もはや無意識的に根づいていると言っていい。これは購買者が「ファネル」(漏斗)や「パイプライン」を順次移動することを前提とした、インサイドアウトのプロセスだ。
しかし、研究によると現実は異なる。購買者は、並行した複数の活動を経て意思決定を行っているのだ。ここでは、これらの流れを「探索」(Explore)、「評価」(Evaluate)、「関与」(Engage)、「体験」(Experience)と呼ぶこととする。
自動車の購入について考えてみよう。米国で自動車を買う人は、事前にオンラインで約13時間かけて車種を調べており、販売店で過ごすのはわずか3.5時間だ。それでも90%以上の車が販売店で購入されている。
ただし、自動車を買う際は価格や製品レビューなどの情報にオンラインでアクセスできるため、顧客の行動は変化している。たとえば50%以上の人が、希望小売価格を知るために試乗が必要な場合、その販売店で購入するのをやめると答えている。また、40%近くの人がウェブサイトに車両価格を掲載していない販売店を利用しない、約40%の人が価格を掲示していない販売店で購入するのをやめると答えている。
情報ソースは、顧客の期待を変える。たとえ善意で行われていたとしても、従来からある多くの慣習は、知らずしらずのうちに顧客の不満を増大させている。さらに、購買者は一般的に、オンラインツールを営業上の会話の代わりとしてではなく、補完するものとして使っており、これらのツールが差別化の要因になっている。
顧客がどこにいるのか、彼らはあなたの市場でどのような流れをたどるのか、そして、流れの中で彼らとどのように関わり合えばいいのかを理解することは、現代の優れたカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を構築する核となっている。
特に、企業はバリューチェーンから「エクスペリエンスチェーン」に考え方を変える必要がある。バリューチェーンは、製品を生産から消費に移すまでの流れに注目する。一方、エクスペリエンスチェーンは、顧客の側から始まって、オムニチャネルのカスタマージャーニーに内在する顧客接点を調整しながら体験をデザインする。これは、自社の製品が購買者の生活をいかに便利にして生産性を向上させるかを強調する「エクスペリエンスマーケティング」のさらに先を行く視点で、ニーズの認識から評価、購買、そして販売後の営業活動へと続く道のりだ。
購買は並列した活動のプロセスである
購買者は、従来のAIDAのアプローチよりも、多くの場合、次のような非同期で同時進行する活動を通じてブランドと交流することが増えている。
探索:購買者はニーズや機会を特定し、それに対応する方法を探す。通常は、潜在的な販売者とのやり取りやインターネットでの情報検索から始める。ニーズは、内的なきっかけ(システムの故障、自動車など機械の摩耗、プロセスの失敗、新しいイニシアティブの発生など)と、外的なきっかけ(規制の強化、新しい技術や市場、広告や販売促進など)によって高まる。
評価:購買者はニーズや機会を明確にしながら、検索、購買者同士の交流、販売者候補の営業担当者などのいずれか、または複数を組み合わせて、選択肢を詳しく検討する。その主な目的は、購買する製品やサービスを決めることではなく、最適なアプローチや方向性(開発か購買か、所有かリースかなど)を決めることだ。複数の選択肢を比較して、解決策の種類を特定し、選択肢を短いリストに絞り込む。
関与:購買者は、購買の意思決定を手助けしてもらうために、供給者とさらに接点を持つ。市場や製品カテゴリーによっては、コンテンツマーケティングの形式のダウンロード、B2B市場での正式なRFP(提案依頼書)の送付、競合する販売者の比較などが含まれる。サイト、ブログ、チャットボット、ソーシャルメディアがもたらす影響の一つは、売り手の組織が買い手から見えやすくなったことだ。買い手は複数のグループとやり取りするようになり、企業がそのやり取りを意図的に組織化することを期待している。
体験:正式に購入を決定して、購買者は製品を使用し、その価値について認識する。サービスやソフトウェアが製品に組み込まれていると、その価値の多くは販売後に実際に使ってみて初めて明らかになる。マーケティングで「経験価値」と呼ばれるものだ。