3. 達成可能な目標から始める

 適合性を高めるための設計では、多くの場合、大きな成果を求めて長い旅に出るよりも、小さくても実体のある成果をすぐに獲得するほうが大切である。

 たとえば、筆者らが訪問したある病院の部長たちは、看護師の残業を承認する時の面倒な手続きに不満を持っていた。パンデミックをきっかけに手続きが効率化されると、彼らはスタッフや受け持ちの患者のために、さらに時間を割けるようになった。それに加えて、承認の権限を付与されたことで、それまで感じたことがなかった上層部からの信頼と敬意が明らかになった。

 この小さな勝利によって、部長たちのコントロールと業務負担の適合性は向上し、しかも経営者にとってのリスクやコストは最小限で済んだ。規模は小さいかもしれないが、この変化は、リーダーが労働条件の改善に前向きであること、そして従業員が自分たちの職業生活に影響する決定について発言できることを証明したのである。

4. 設計の原理を活用する

 従業員は不適合を生むようなプロセスについて「複雑すぎる」と表現することが多い。たとえば、仕事への不必要なステップの追加、仕事の流れをさえぎってしまうルールや規則がそうである。仕事の再設計では、それらをできるだけ簡略化すべきである。新しいタスクを加えるなら、別のタスクを取り除く。また、よい設計では激しい活動と落ち着く時間のバランスが取れている。人と関わる時間と一人で仕事に没頭する時間、深く集中する時間と静かに振り返る時間が交互に設定されている。

 リモートワークが可能な仕事では、厳格なオフィス出勤のみの方針やハイブリッドワークの方針が、さまざまなタイプの不適合を招くことがある。家でも同程度に行えるタスクがあるのに、いつでも全員に出社を求める柔軟性のない方針に対して、従業員はいら立ちを覚える。「人と一緒に仕事をする時間」と「一人の時間」(おそらくリモート)のバランスの取れた効果的なリズムを伴うプロセスの構築は、コミュニティや業務負担、公平性、コントロールの適合性に好ましい影響を与えるだろう。

5. 進捗のチェックポイントを組み込む

 何であれ構築したイノベーションは、継続的に評価し、調整し、改善することが必要になる。真の進展のためには、必ず実践と軌道修正を伴う。仕事と人の適合性の中心的要素を評価する組織的な点検を実施すれば、軌道を外れずに進むことができる。また、職場の変化のプロセスと継続的な改善をたえず監視することを通して、「仕事と人の適合性」という概念を、抽象的な理想から職場管理の実践の次元に移行させることができる。

 現場の最前線にいるマネジャーは、不適合に対処するための主軸になる。彼らは従業員やチームと協力して、問題のある領域を突き止めてよりよい解決策を設計するのに絶好の立ち位置にいる。彼らは、経営幹部から十分な裁量を与えられれば、従業員が職場環境をニーズに合わせて調整し、生産的な適合性を実現するのを支援することができるのである。

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 エグゼクティブに必要なのは、バーンアウトを撲滅する万能薬の発見ではなく、職場におけるリーダーシップについての新しい考え方だ。

 2020年代の経営管理においては、従業員が職場で経験する不適合にうまく対応し、従業員の心理的モチベーションに細心の注意を払い、仕事の設計や労働条件の柔軟性を高めることが求められている。

 エグゼクティブは、従業員やマネジャーと協働して行う問題解決を主導していく能力を高めなければならない。バーンアウトした従業員からは、組織全体で不適合を修正する必要があるということが発信されている。その修正は、一握りの人々だけではなく、すべての従業員に好ましい影響を与えるだろう。

 最近のギャラップの世論調査によると、世界の従業員の80%が仕事に「打ち込んでいない」という。もちろん、この80%のすべての人がバーンアウトしているわけではないが、疲弊感やシニシズム、職務効力感の低下につながる体験をしている可能性がある。仕事と人の適合性の向上は、ただ最悪の結果を回避させるだけでなく、職場の潜在能力を高め、近い将来、従業員の能力を最大限引き出すことにつながるだろう。


"To Curb Burnout, Design Jobs to Better Match Employees’ Needs" HBR.org, March 17, 2023.