部下にうまく権限委譲するための5つの戦略
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サマリー:社員の自律性を高めることで、モチベーションは上がり、パフォーマンスや幸福度の向上につながる。そのためには、社員に決定権を委ねることが重要だ。しかし、実際には権限委譲がうまくいかず、部下が意思決定できな... もっと見るい状況に陥ることが多い。これを放置すると、社員の不満につながり、成長の機会を奪うことになる。本稿では、部下が意思決定できない状況に陥らないための5つの戦略を紹介する。 閉じる

なぜ部下は意思決定できないのか

 自律性は、革新的な組織文化の象徴である。自分自身で意思決定ができれば、社員のモチベーションは高まり、ひいてはパフォーマンスや幸福度の向上につながる。またリーダーは、重要で複雑な意思決定に専念し、新たな価値創造の手段を探る時間が持てるようになる。自律性を高めるには、組織のトップや中央から現場へ権限を移し、社員に決定を委ねることが必要である。

 簡単なことに思えるかもしれないが、実際はなかなかうまくいかない。伝統的な階層型組織で育った企業幹部にとっては大きな変化であり、そのような組織では一部の人が決定権を握り、決定事項が共有されないことも多い。

 その結果、社員は自分で決断を下すことに慣れていない。そのうえ、明確な指導やサポートがないまま権限と責任だけ与えられ、自力で対処させられる。したがって、どれほど能力や意欲の高い社員でも、自分のやっていることが正しいかどうか不安になる。特に、同僚が解雇されるのを目の当たりにすると、リスクを感じることもあり、結果がうまくいかなかった時のことを考えてしまう。

 このようなエンパワーメントに対する要求と能力(および自信)とのギャップを、筆者は「意思決定の欠損」と呼んでいる。これを放置すると、エンパワーメントや自律性の向上が実現されないことに社員が不満を抱くようになり、自分自身が成長できる機会を見出せなくなる。リーダーもまた、進歩がないことにいら立ちを覚える。

 そこで本稿では、この「欠損」を埋める5つの方法を紹介する。

権限委譲に備える

 エンパワーメントは、マネジメント用語の一つだが、いつも期待された役割を果たせていない。その原因は、主に権限を持っている人がそれを手放したがらないことにある。権限と自分の役割や地位は密接に結びついているものであり、人に責任を委ねると、それだけ自分の影響力が弱まると思い込んでいるのだ。自信に満ちあふれているように見えても、内心では不安を感じ、他人を十分に信用していないのである。

 そこで、以下のように権限委譲に備える。

・過去に部下への権限委譲をためらった理由を振り返る。試したが、失敗したからか。成功させるためには、どうすればよかったのか。権限委譲した時の自分の感情と、感情から得た気づきは何か。最初の一歩を踏み出すには何が必要か。

・段階的な責任の移行を計画する。まずは、リスクの低い判断を能力のある部下に任せる。そうして自信や他者への信頼感を高めてから、委任する幅を広げるとよいだろう。

・権限委譲により管理業務から一部解放されることを、自分の意思決定の質を高め、イノベーションや成長など、自分が担うべき他の役割を追求する機会ととらえる。

・なぜこのようなことをするのかを思い出す。つまり、課題のある製品やサービス、マーケットに対する部下のインサイトを深め、活かす機会を与えるため、と自分に言い聞かせる。

 筆者のクライアントであるジョン(仮名)は、このようなステップを踏む前に、自身のリーダーシップスタイルを見直さざるをえなかった。彼の管轄部門は厳格に管理され、すべてが彼の指示で動いていた。しかし、自己の能力に対する不安から来ていたそのマネジメントスタイルは、チームの革新や高い成長目標を達成する能力を抑え込んでしまっていた。彼は、直属の部下の一人と相談しながら、自分の意思決定の一部を任せられる社員を選び出した。そこから彼のエンパワーメントの道が始まった。