意思決定の基本指針を定める
リーダーの役割とは、ルールを決めて部下に従わせることではなく、自分で考えさせることである。部下には、顧客と自社にとって最善の利益とは何かを考えて、意思決定を行うよう助言する。リターンとリスクの境界線を設定する。健全な意思決定を妨げる可能性のある姿勢(疲労、近視眼、過信など)に注意させる。決定事項だけでなく、その理由も必要に応じて伝えられるよう透明性を求める。
これらの指針によって、意思決定者が決定を下すまでに検討し答えを出すべきことがおのずと見えてくる。
・意思決定:どのような問題に取り組み、何について判断が求められているかを把握し、分類する。
・重要性:なぜその問題が重要なのか。
・期間:いつまでに決定する必要があるか。
・選択肢:ほかにどのような選択肢があるのか。別の角度から検討できないか。
・エビデンス:直接の経験およびデータから抽出した知見によって、何がわかっているか。
・前提:信じるべきことや、想定すべきことは何か。
・バイアス:潜在的なバイアス(確証バイアスや過信など)をどのように最小化してきたか。
・判断基準:決定をどのように評価するか。
・ステークホルダー:誰を意思決定に関与させるか。
・判断:何を決定したか。
・コミュニケーション:決定したことをどのようにまとめ、伝えるか。
・レビュー:今回の決定から、今後に活かせる学びは何か。
委任する範囲を明確にする
意思決定の役割、権限、説明責任を明確にすることが不可欠である。これはトップが最初に行うべきことである。自分が個人また集団として責任を負っている意思決定を書き出す。最終的な責任は変わらず自分にあることを念頭に、自分がその意思決定を行うのに最適な人物かどうかを検討する。権限委譲と職務怠慢を混同してはいけない。
意思決定を人に委ねるかどうかは、自分の役割、自分と相手の能力、意思決定の重要性、他者の期待によって決まる。複雑で繊細な事柄であるほど、自分が引き続き意思決定者となるケースが多いだろう。
たとえば、筆者のクライアント、『ガーディアン』紙のCOO兼CFOであるキース・アンダーウッドは、会社の置かれている状況に対する高度な理解が求められ、ビジネスに重大な影響を及ぼし、下した決断に対する責任を全面的に負うことをステークホルダー(社員や投資家など)に期待されている場合には、権限委譲しないと述べている。マスターカードのUK・アイルランド地区社長、ケリー・ディバインは、筆者にこう語る。「私が本当に人に任せることが難しいと感じるのは、非常に意見の分かれる、プレッシャーの大きい重要な判断だけで、チームの誰かがその重荷を一人で背負うことは避けたいと思っています」
誰になら意思決定の責任を委ねられるか、各人の能力と責任範囲の両方に基づいて特定し、その人が決定できる範囲を明確にする。しばらくして、新体制がうまく機能していることを互いに確信できたら、責任を段階的に下の階層へ下ろすよう促す。
たとえば、大きな商談では、CFOと事業部門のトップが必要に応じて法務や調達の専門家に相談しながら、重要な意思決定を行うだろう。その後の各製品の価格やリソースに関する意思決定は、ビジネスユニットのリーダーやプロダクトマネジャーに任せる。同様に、顧客とじかに接している社員に、クレーム対応のあり方を決めさせる、などである。