
顧客満足度に対する理解が急速に深まった
アップルは2001年に「1000曲をポケットに」というメッセージとともにiPodを発売した。あれから20年、ロレアルは女性が1000色の口紅をポーチに入れて持ち歩けるようにした。化粧品の変革がさらに一歩、進もうとしている。
そのカギは、イヴ・サンローラン(YSL)の口紅をプリントするコネクテッドデバイスだ。自分の服装の写真をYSLのアプリにアップロードすると、合いそうな色が数色、生成される。AR(拡張現実)を使って微調整を行い、希望通りの色になったらボタンを押すと、デバイスが数滴の口紅をプリントする。
ロレアルが示したのは技術力の高さだけではない。先進的なテクノロジーと複数の「顧客との接点」(
カスタマータッチポイントの再考
顧客とのさまざまな接点を融合させる「オムニチャネル」
しかし、カスタマーエンゲージメントの未来において、タッチポイントはあらかじめ定義された流通経路のノードではなくなる。販売拠点やさまざまなデジタルおよびバーチャルなインタラクションの経路として機能する、
ただし、こうした画期的なインタラクションは物語の一部でしかない。筆者たちが中国、フランス、米国の顧客6200人を対象に最近、行った調査では、顧客満足度に直接影響を及ぼす7つのCXの要素が明らかになった。
最初の4つ、利便性、選択肢、ナビゲーション、決済は不可欠な要素である。つまり、これらの要素があるかないかで、ある体験を「良い」と判断するか「悪い」と判断するかが決まる。ポーカーでテーブルに置くチップ(賭け金)のようなものだ。残りの3つの要素、雰囲気、専門性、感触は、満足度の基準を増大させる。これらの要素があると70%の確率で、満足度が「良い」から「
これらの要素の効果を示す好例が、アリババ・グループ傘下の食料品店チェーン「盒馬鮮生」(フレッシッポ)だ。2015年に中国で事業を開始したフレッシッポは、物理的な体験とデジタルな体験を一つの環境で組み合わせた完全自動化の店舗を300以上、展開している。店を訪れた買い物客は、スマートフォンを使って「ショッピングカート」に商品を「追加」していく。カート内で商品に関する情報にアクセスでき、店員の手を借りずに支払いまで済ませる。また、店舗はオンライン注文のフルフィルメントセンターにもなっている。若い消費者の約36%が、このハイテク店舗に最高の満足度をつけている(食料品店全体の平均は16%)。
先のロレアルの口紅購入ツールも、タッチポイントとテクノロジーの融合による、よりよいCXを目指している。このツールでは画面のタップや操作、顧客の行動のすべてが、それぞれタッチポイントになる。ロレアルはすべてのインタラクションのデータを取得し、その情報を受け取った製品開発やマーケティングなどの部門は、何が有効で、どこを改善すればよいかを確認することができる。
リアルタイムで生成されるデータの量は膨大だ。物理的、デジタル、拡張、バーチャルなインタラクションは、それぞれ豊富な情報を有するネットワークに接続し、このネットワークは顧客を認識して購買経路に誘導する。このようなインタラクションによって、顧客は自分が受け取るものについてある程度の主導権を持つことができ、より深くて豊かなパーソナライズされた体験を得る。
B2B企業も、ネットワークとつながっているタッチポイントを利用して顧客価値(カスタマーバリュー)を高めている。農機具メーカーのジョンディアは、スマートデバイスとインテリジェンスを組み合わせたエコシステムにより、農家の収穫量と収益性の向上を支援している。同社のクラウドベースの機械管理システムは、テレマティクスを人工知能(AI)プラットフォームに投入して、農家がリアルタイムで機器を監視し、エコシステムのパートナーと連携してインサイトを深め、アナリティクスを利用してどの場所にどの作物を植えるか、またその最適な時期を決める。これらをすべて、スマートフォンのアプリで管理できる。
こうした利便性は、特に40歳以下の顧客にとって重要だ。この年代の顧客の解約率は人口全体の2倍に上る。彼らの期待に応えることのリターンと同じくらい、応えられない場合のリスクも大きい。
重要な特徴の一つは、彼ら若い顧客が購買に際して自律性を重視するため、人の代わりにテクノロジーとのやり取りを好むようになることだ。たとえば、小売業では若い購買者の60%近くが、人間のレジ係よりセルフサービスの「スキャン&ゴー」端末を使いたいと答えている。筆者たちの研究によると、テクノロジーで豊かになったCXへの彼らの関心は、50歳より約2倍、60歳より約3倍高い。
ただし、状況によって若い世代は、人間とバーチャルなインタラクションの区別がつかない。2016年にジョージア工科大学でティーチングアシスタント(TA)を務めていたジル・ワトソンが、コンピューターサイエンスを学ぶ学生たちにオンラインで貴重なサポートやアドバイスを提供するようになった。しかし、誰も彼女の正体を知らなかった。ジルは一部の人が思っていたような、明るくてフレンドリーな大学院生ではなかった。ジョージア工科大学のアショク・ゴエル教授が率いるチームがIBMのAIプラットフォーム「ワトソン」で構築した人格だったのだ。
このようなハイテクのタッチポイントの本質的な利点の一つは、急速に拡張可能で訓練できることだ。ジル・ワトソンは17の授業でTAを務めた。人間なら対応し切れないだろう。ジルの原型の作成には約1500時間かかったが、最近のバージョンは10時間もかからないとゴエルは言う。
これは広範なトレンドの一例にすぎない。最近まで、次世代インタラクションのツールは商業的に実現不可能か、企業が大規模に展開するには高価すぎた。現在では、AIベースの画像分類システムを作成するコストは4年前から約33%安くなり、学習時間は94%改善されている。クラウドの利用が飛躍的に伸びたことで、重要な機能へのアクセスが簡単になっている。こうした変化により、ますます多くの企業が、ますます洗練された方法で顧客と関わることができるようになった。