1. 真のレジリエンスとは何であり、何ではないかを明確に理解する

 冒頭の会話で友人は、私が経験してきた人種差別と、仕事で直面した困難を同等のものと見なしていた。そして、私が日々乗り越えてきた困難に比べれば、職場での困難は小さなものだと思い込んでいた。ある意味、彼は正しい。たしかに私には苦難に立ち向かった経験があり、この難題も乗り越えられるという自信があった。

 しかし、全体として彼は間違っていた。彼は、私が人種差別に対応してきたことで打たれ強くなっているため、仕事の困難も耐え抜けると決めつけていたのだ。私にとって人種差別の問題は、これまでずっと経験してきたことであり、より身近なものだった。しかし、仕事の問題は私が初めて直面するものだった。さらに、私はその2つを比較してとらえておらず、まったく別の種類のものだと感じていた。

 おそらく最も重要なこととして、私の立場からは彼には見えにくいものが見えていた。人種差別とレジリエンスについてのバイアス、つまり人種差別の経験は強靭なレジリエンスを育んだはずであるという思い込みや、私の育った環境を知っているという思い込みが、彼の反応につながったのだ。私が話した困難を彼が大したことではないと片付けたことは、私を傷つけ、助けにもならなかった。そして、それによって真のレジリエンスについての誤解が明らかになった。

 その時のことを振り返り、私は彼にこう伝えた。レジリエンスとは、歯を食いしばって黙って苦しむことではなく、単に打たれ強いだけでもない。レジリエンスとは、困難の中で希望と主体性を見出す能力のことだ、と。

 レジリエンスについて理解を深める方法の一つが、「生き残ること」と「成長し成功すること」(スライビング)という枠組みで考えることだ。生き残ることとは、忍耐力があるということだ。目の前の困難に耐え、生還できるか。企業では、その答えは「イエス」であることが多く、たいていの人は職場で物理的な脅威にさらされることはほとんどない。

 一方、スライビングは、それとはまったく異なる。苦しみに耐える能力ではなく、苦しみをまったく異なるものに変える力だ。職場環境の質、チームメンバー間の信頼関係、サポート体制が整っていることが重要になる。仕事においては、レジリエンスを活かす力は経験の質、つまりスライビングとつながりがある。

 筆者らが企業リーダーと協力する中で明らかになった、レジリエンスを育み、強化するための4つの戦術が以下だ。

・引きこもりたい時でも、周囲の人々とつながりを持つ。
・目の前にある選択肢に目を向けることで、問題をとらえ直す。
・自分自身と自分の能力に対する見方を変える。
・何もせずに休むのではなく、エネルギーを得られることを実行し、活力を取り戻す。

2. 共通の困難でも人によって受ける影響は異なることを考慮する

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う世界的なシャットダウンは、女性に著しく偏って大きな影響を与えた。米国勢調査局のデータによると、この世界的な健康危機が生じた際に、学齢期の子どもを持つ母親約350万人が、子どもの面倒を見るために仕事を辞めた。

 パンデミックが猛威を振るう中、多くの企業が従業員にのしかかる負担を認識し始め、メンタルヘルスカウンセリングのための資金やリモートワークステーション、運動器具など、新たなリソースを提供した。それは「従業員一人ひとりをサポートするための資金を確保し、皆を平等に支援する」という善意に基づくものだ。

 しかしこのアプローチでは、世界的な現象のもたらす影響が人によって異なるという現実を認識できない。そのため、育児支援を提供する企業が少なく、全国の多くの有能な母親のうち仕事に復帰できたのはごく一部だった。

 事態を把握できていないリーダーは、女性たちが職場復帰しなくても肩をすくめただけだったかもしれない。女性たちが復帰するために十分努力しなかったためだと考えた人も少なくないだろう。

 しかし優れたリーダーであれば、なぜかと考え、従業員の成長と成功を妨げている障壁を探すだろう。実際、そうした障壁に気づいたリーダーの多くが行動を起こしている。ケア・ドットコムの年次報告書「フューチャー・オブ・ベネフィット」によると、育児支援を提供する雇用者の数は、2019年には調査対象者の36%だったのが、2022年には56%に急増している。

 優れたリーダーは、個人、組織、システムという3つの異なるレベルで、こうした多様な要求や力学に配慮する。また、従業員それぞれがすでに抱えている仕事を念頭に置きつつ、さまざまなグループに何を期待しているのかを問う。

 優れたリーダーであれば、社会の周縁環境で育ったためにより高いレベルのレジリエンスを持っていると決めつけることはない。おのおのの立場を理解することで、従業員が抱える不安など取るに足らないと思ったり、現実の問題を見て見ぬ振りをしたり、必要かつ適切に対処しなかったりすることを回避できる。