
レビューの投稿を促すことは本当に賢明な方法なのか
オンライン上のカスタマーレビューは、企業にとって非常に大きな価値を持っている。何しろ、顧客の98%は、購入を決める前にカスタマーレビューをチェックしているという。カスタマーレビューは、製品やサービスに関する極めて重要な情報源の一つなのだ。2021年の時点で、オンライン上のカスタマーレビューの影響を受けた購買行動による売上高が世界全体で3.8兆ドルに達するという予測も示されていた。
そこで、企業はオンライン上での自社の評判をよくして、レーティング評価のスコアを高めるための方法を血眼になって探している。たとえば、顧客にレビューの投稿を呼びかけたり、投稿されたレビューへの返事を書いたり、自社製品やライバル企業の製品にニセのレビューを投稿したりといったことが行われている。そのなかで最も一般的な方法は、顧客にメールを送ってレビューの投稿を呼びかけるというものだ。実際、顧客の80%は、企業からレビューの投稿を依頼された経験があると述べている。
しかし、レビューの投稿を促すことは、本当に賢明な方法なのか。「時には賢明な場合もある」というのがこの問いの答えだ。
筆者らは、ある欧州の大手旅行プラットフォームの協力を得て、3カ月間にわたり、20万人近い顧客を対象にフィールド実験を行った。カスタマーレビューの投稿を依頼するメールを顧客に送ることにより、レビューの内容(レーティング評価の平均点など)が実際に変わるのか、変わるとしてどのように変わるのかを明らかにしたいと考えたのだ。
このフィールド実験によれば、レビュー依頼のメールを送ることには、2つの効果があった。まず、旅行を終えた直後の4日間に投稿されるレビューの件数が8パーセンテージポイント多くなった。そして、極端なレーティング評価(極端にポジティブなレーティングと極端にネガティブなレーティング)の割合が10%少なくなった。
このような傾向が見られるのは、なぜなのか。筆者らの仮説は、以下の通りだ。
極端にポジティブもしくは極端にネガティブな経験をしたわけではない顧客は、そのブランドと関わった経験がそれほど強い印象に残っておらず、あまり積極的にカスタマーレビューを投稿しようとしない。レビューの投稿を呼びかけるメールが送信される対象はたいてい、一定の時間が経ってもまだレビューを投稿していない顧客なので、そうしたメールは、極端にポジティブもしくは極端にネガティブな経験をしていない顧客の元に届く可能性が高い。その結果、カスタマー・レビューの投稿を引き出そうとするメールは、可もなく不可もない経験をした顧客に、可もなく不可もないレビューを投稿するよう促すことになるのだろう。
こうしたことは、オンライン上のカスタマーレビューへの依存が大きい企業にとって、何を意味するのか。