エンゲージメントの高い従業員は、よりよい顧客体験を生み出せる
Yaroslav Danylchenko/Stocksy
サマリー:従業員体験(EX)と顧客体験(CX)は連動している。一方を高めることは、もう一方を高めることにつながるのだ。では、どのようにして双方の関連性を戦略的に事業に組み込み、それぞれを高めることができるのか。具体... もっと見る的な事例を扱いながらその方法を紹介する。 閉じる

従業員体験と顧客体験を結びつける

 近年、企業の従業員体験(EX)と顧客体験(CX)の関連が指摘されるようになっている。労働市場のあり方が大きく変わり、テクノロジーは進化を遂げた。その結果、さまざまな方法で企業と従業員と顧客が結びつくことが可能になっている。リーダーは、従業員体験が顧客体験を向上させる最大の要因であることをはっきり認識し、この二つの要素を一体化させるために、より賢明で戦略的な方法を見出す必要がある。

 いまほとんどの企業は、人事関連でさまざまな難しい問題に直面している。たとえば、新しいニーズに対応できるスキルを持った人材の不足や、従業員の離職率が高くなり、採用と研修のコストが増大していること。また、ハイブリッドワークなどの新しい働き方の普及、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の面での嘘偽りのない取り組みを求める従業員の意識の高まり、そして働き手が抱く価値観の大きな変化を背景に、従業員エンゲージメントを高めることが難しくなっている場合もある。

 こうした状況の下で、今日の企業は、豊富な知識と経験、そして高いモチベーションを持った働き手、言い換えれば、質の高い顧客体験を提供できる人材を確保することに苦労している。

 最近は、顧客も従業員体験の質に大きな関心を払うようになってきている。みずからの価値観に沿った購買行動を実践する一環として、企業が自社の従業員とどのような関係を持っているかを重視する顧客が増加しているのだ。そのような顧客は、従業員を大切にし、公平に扱い、従業員のウェルビーイングに重きを置いている企業を好む傾向がある。それに加えて、従業員が顧客と直接関わる機会が増えているため、従業員エンゲージメントのあり方が顧客に及ぼす影響も増大している。

 コンサルティング大手PwCによると、顧客体験と従業員体験の両方を向上させるために投資している企業は、自社の製品やサービスに最大16%も高い価格をつけることができている。さらに、マサチューセッツ工科大学(MIT)の2人の研究者によると、従業員体験で上位の4分の1に属する企業は、それ以下の企業よりもイノベーションを成功させているという。下位の4分の1の企業と比較した場合、イノベーションによる収益の差は2倍に達し、(業界の違いによる影響を考慮に入れても)ネット・プロモーター・スコア(NPS)の差もやはり2倍に達しているのである。

 従業員体験は、採用プロセスではじめてその会社と接触した時に始まり、退職時に最後に接点を持つ時までの間に、従業員が勤務先の会社との関わりを通じて経験することの総和と定義できる。従業員体験の質を高めるためには、従業員の体験全体に目を向け、意識的に、そして明確な意図を持って取り組むことが不可欠だ。

 ところが実際には、ほとんどの企業が従業員体験を柔軟な働き方を可能にする勤務体系、報酬と評価のためのプログラム、ウェルネス関連の取り組みなど、人事関連の個別の要素の集合体と位置づけて、その設計とマネジメントを行っている。

 このような発想は時代遅れと言わざるをえない。今日の従業員体験は、その会社の組織文化全体と、採用から退職までの間のすべての瞬間──マネジャーが日々、従業員とどのように関わるかといったことも含まれる──によって形づくられる。

 顧客体験には不確定要素が極めて多く、顧客体験の改善には、全社の一貫したエンゲージメントが必要だ。そのようなエンゲージメントを強化するうえでは、質の高い従業員体験が後押しになる場合がある。従業員体験を活かして、魅力的な顧客体験を生み出したいのであれば、リーダーは顧客体験と従業員体験を連携させ、従業員と顧客が直接結びつくようにし、両者が互いに対して及ぼしている影響を把握するためのツールとプロセスを導入する必要がある。