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勝てる顧客体験
オープンAI(OpenAI)が開発した対話型人工知能(AI)のチャットGPTは、2022年11月に公開されて以来、ビジネス界を席巻している。これを受け、マイクロソフトはオープンAIへの投資を増やし、みずからの検索エンジン「ビング」(Bing)を一新した。従来は、検索したい言葉を入れると関連サイトのリンクが列挙されて、ユーザーがそれをクリックしていたが、新しいバージョンではAIによって生成された回答が表示される。もちろん、検索エンジンの覇者グーグルもすぐに反応して、検索プロセスに大規模言語モデル(
グーグルもマイクロソフトも、単なる検索に限定せず、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を公表することにより、自社のチャットボットを他社にも提供している。つまり、よその企業のソフトウェア開発者が、その会社のシステムにグーグルやマイクロソフトのチャットボットを統合できるようになった。金融サービスからヘルスケア、教育から観光まで、幅広い業界でサービスのイノベーションや新しいユーザー体験が爆発的に増えると専門家は予測する。チャットボットは大規模言語モデルを活用することで、人間のような反応を生成し、さまざまな言語やスタイルで会話をする驚くべき能力を獲得した。
新たな可能性を前にして企業経営者らは、この新テクノロジーをどのように有効活用すれば新たな顧客体験を構築できるかという課題に取り組んでいる。もちろん、チャットGPTやバードには、もっともらしい嘘やバイアス、非透明性など、まだ多くの欠点があるが、技術は日々改良されており、極めて有望だ。したがっていまこそ、この新しいテクノロジーが競争にもたらす影響について考えるよい時期だろう。
本稿では、筆者らの研究と近著Connected Strategy(未訳)に基づき、勝てる顧客体験をつくるための提言をしたい。
提言1:テクノロジーではなく顧客に注目する
新しいテクノロジーを前にすると、それにばかり注目して、「このテクノロジーには何ができるだろう」と考えてしまいがちだ。だが筆者らが提案したいのは、まず顧客のペインポイント(悩みの種)を見極めたうえで、「このテクノロジーをどう使えば、その解決を助けられるだろう」と考えることである。顧客のペインポイントを発見するためには、顧客体験をRで始まる3段階に分けて考えるとよいだろう。
顧客体験の第1段階は、顧客のニーズの「認識」(Recognition)だ。顧客自身またはサービス提供者のいずれかが、顧客の満たされていないニーズを(チャットボットを使っても、使わなくても)見極める必要がある。大規模言語モデルには、文章を解釈したり、データを統合したりする能力があるから、ここで大きな助けになりうる。
たとえば、この種のAIアシスタントに、ユーザーが自分の健康データやウエアラブル端末フィットビット(Fitbit)の運動データ、あるいは法的文書などの情報を継続的に読み取る許可を与えるとする。するとAIシステムは、健康診断を受ける必要があるとか、生命保険の内容をさらに包括的なものに変更する必要があるなど、潜在的なニーズへの気づきを促す。
注目したいのは、このような顧客体験をチャットボットが主導するため、惰性や長期的な視点の欠如といったユーザーのよくある問題を克服できる点だろう。チャットボットの促しをきっかけに、新世代の大規模言語モデルを通してユーザーは、これまで以上に明確にニーズを説明し、発見してくれるチャットボットとのコニュニケーションを続けられる。
顧客体験の第2段階では、これらユーザーのニーズが「要請」(Request)に変換される。大規模言語モデルは、複数のデータポイントから推測し、ユーザーが次に求めることを予測するのが非常にうまい。その結果、特定の顧客ニーズを解決する斬新なアイデアのリストを作成し、満たされていないニーズを解決するプロダクトやサービスの提案を作成できる。
第3段階で企業に必要なのは、顧客への「対応」(Respond)である。ここでは、人間が関与しなくても文章を作成できる大規模言語モデルの能力が役に立つ。たとえば、新しい医療報告書を作成して、適切な医療従事者に知らせたり、予約の可否を問い合わせたりできる。
同じように、契約書や保険証書を作成したり、更新したりできる。そのすべてが、適度に高度なレベルで(患者に対する場合と、医師に対する場合に合わせて)実行され、利用者の現在の気分(不安、幸せ、落胆)に合わせて、論調を調整することもできる。