生成AIはクリエイティブな仕事をどう破壊していくか
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サマリー:対話型AI(人工知能)の「チャットGPT」や画像生成AIの「ミッドジャーニー」といった生成AIは、人間の創造性が持つ特別な地位を覆し、クリエイターの仕事を大きく変えるおそれがある。本稿では、可能性のある3つのシ... もっと見るナリオを示す。そして、それぞれのリスクと課題を明らかにするとともに、企業が新しい時代に備えるためにいまなすべきことを提言する。 閉じる

クリエイターエコノミーに
生成AIが与える影響

 現在、「クリエイターエコノミー」の市場規模は、約140億ドルとされる。新しいデジタルツールを使うことで、独立系のライターやポッドキャスター、アーティスト、ミュージシャンがオーディエンスと直接つながりをつくり、収入を得ることが可能になった。

 ニュースレター配信プラットフォームの「サブスタック」や、ソーシャル雑誌の『フリップボード』、記事を書くことで仮想通貨の報酬を得られる「スティーミット」などのプラットフォームが登場したことで、個人でコンテンツを作成することはもとより、作品のプロデューサーやブランドマネジャーにもなれるようになった。新しいテクノロジーによって多くの仕事が破壊される一方で、こうしたプラットフォームは、人々がみずからの創造性によって生計を立てる新しい方法をもたらした。

 技術革新の波が押し寄せてきても、創造性はテクノロジーによる破壊に打ちのめされず、未来においても必要な人間特有の資質であり続けてきた。実際、行動科学の研究者らは、創造性のスキルを「人間の傑作」と呼ぶほどだ。

 ところがいま、対話型AI(人工知能)の「チャットGPT」や画像生成AIの「ミッドジャーニー」といった生成AIは、創造性が持つ特別な地位を覆し、独立系クリエイターと企業に所属するクリエイターの両方の仕事を大きく変えるおそれがある。これらの新しい生成AIモデルは、膨大なデータやユーザーのフィードバックから学習して、文章や画像、音声、またはそれらを組み合わせて新しいコンテンツを生み出すことができる。このため、コンテンツに関わる仕事、つまり執筆や画像作成やコーディングなど、知識や情報の集約を必要とする仕事は、生成AIによって、特に大きな打撃を受ける可能性が高そうだ。

 ただ、この影響がどのような形で表れるかは、まだはっきりしていない。本稿では、可能性のある3つのシナリオを示すが、それらは相互に排他的でなく、2つまたは3つすべてが現実になる可能性がある。これらを示す過程で、それぞれのリスクと課題を明らかにするとともに、企業が新しい時代に備えるためにいまなすべきことを提言する。

3つのシナリオ

AI支援イノベーションの爆発

 ほとんどの企業はいま、人間の労働力の効率とパフォーマンスを高めるためにAIを導入する重要性を認識している。たとえば、AIは医療従事者が難易度の高い仕事をこなす能力を高めるために用いられ、手術中に医師に助言したり、がん検診のツールとして使われていたりする。AIは、カスタマーサービスなどの難易度の低い業務でも使われている。また、ロボット工学は、倉庫をスピーディかつ確実に運営したり、コストを削減したりするために活用されている。

 生成AIの登場によって、より創造的な仕事でも、能力を拡張する実験が起きている。2年ほど前、ソースコードの共有サイト「ギットハブ」は、AIが人間のコーディングを支援する「ギットハブ・コパイロット」を導入した。最近では、デザイナーや映画制作者や広告代理店が、「DALL・E2」(ダリ2)などの画像生成AIを使い始めている。こうしたツールは、テクノロジーに精通していないユーザーでも利用することができる。実際、ほとんどのツールは非常に使いやすく、小学生レベルの言語能力の子どもでも、すぐにコンテンツを作成できる。ほぼすべての人が利用できるようにつくられているのだ。

 AI支援イノベーションが爆発的に増えるというシナリオは、創造的な仕事に従事する人にとって、必ずしも脅威ではない。AIは多くのクリエイターを失業させるのではなく、人間がすでに行っている仕事を支援し、そのスピードと効率を大幅にアップするだけだ。自然言語を操る生成AIツールを使えば、新しいアイデアや文章をつくるのに必要な時間と労力を削減できるため、生産性が著しく高まる。こうして生成される情報は、依然として人間が修正・編集する必要があるが、全体として創造的なプロジェクトはスピードアップするはずだ。

 そのような未来は、現在すでに垣間見ることができる。AIツールを使うことで参入障壁が下がれば、創造的な仕事に従事する人が増えるだろう。ギットハブ・コパイロットは、コードを書く人間の代わりはできないが、初心者がゼロからコードの書き方を学ばなくても、そのモデルに埋め込まれた知識や膨大なデータを頼りに簡単にコードを書けるようにする。

 プロンプトエンジニアリング(機械に適切な問いかけをするスキル)を持つ人が増えれば、AIは非常に適切で有意義なコンテンツを作成できるようになり、人間はそれを使う前に多少編集するだけでよくなる。このような高度な効率化は、人間がコンピュータに指示を出すことで円滑化される、これには高度な音声テキスト化アルゴリズムが使われ、そのテキストがチャットGPTのようなAIにより解釈され、実行されるだろう。

 知識を迅速に検索し、文脈に当てはめ、簡単に解釈する能力は、大規模言語モデルをビジネスに応用する最も有力な方法かもしれない。自然言語インターフェースと強力なAIアルゴリズムを組み合わせれば、人間がより多くのアイデアや解決策をより素早く思いつくのを助け、それを実験して、より多くの創造的なアウトプットをもたらすことができる。全体として、このシナリオが描き出すのは、機械が人間のクリエイティビティを拡張して迅速なイテレーションを可能にする、スピーディなイノベーションの世界だ。