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創造性を最大化する働き方
創造性を発揮するためには、同期的に仕事をすることが不可欠であると、大半の研究者や実務家は考えている。しかし、リモートワークやフレキシブルな働き方が広がり、チームメンバーは同じタイムゾーンにいなくても、むろん同じオフィスにいなくても、プロジェクトで協働できることが多くなった。
チームメンバーが共同で成果を上げるために貢献しながらも、ズームや電話上で連携することもなく、完全に別々に仕事をすることは「非同期的」(アシンクロナス)な働き方と呼ばれる。非同期的チームワークは急速に拡大しており、未来の仕事の創造性に多大な影響を与えるものだ。
たしかに、同期的に仕事をすると互いの知見やエネルギーを吸収し合い、よりよいアイデアや、互いのフィードバックを活かす機会が生まれる。さらに、同時性によって人々が同じ認識を持ってプロジェクトに取り組むことができるため、クリエイティブなプロジェクトにかかる高い調整コストを削減することが可能だ。
さらに、同期的に一緒に働く過程で、チームメンバーはより多くの個人と交流し、同期的な労働環境において斬新なアイデアにつながる新しい洞察や情報を得ることができる。
しかし、創造性は同期的な環境で開花するというこの考え方は、チームメンバーの社会的地位の差異を無視している。研究によると、女性や社会で周縁化されたコミュニティの人々は、さまざまな同期的な労働環境では発言する機会が少なく、発言した場合にはより厳しく批判されることが明らかになっている。その結果、同期的なチームでは、女性や周縁化された人々が新しいアイデアやリスクの高いアイデアを表現することを抑制し、結果としてチームの平等性やアウトプットの創造性が低下する。
このことについて深く調査するため、カリフォルニア大学バークレー校のアーヤン・ダスと筆者は、非同期的なチームワークと同期的なチームワークが、創造的なタスクにおける男女のパフォーマンスに与える影響について詳細に調べた。
研究内容
筆者らが研究対象に選んだのは、インドの民族音楽家「バウル」だ。音楽のスタジオ録音では、ライブ録音での同期演奏とクリックトラックによる非同期演奏の両方が可能になることを利用した。バウル音楽は、歌によって神秘主義を説く口承音楽であり、楽譜がないため一つの曲にさまざまなバージョンや解釈がある。
また、バウルのアンサンブルによるスタジオ録音は、
筆者らはフルサイクルアプローチを採用し、定性的な観察とインタビューを通じて理論と仮説を構築し、フィールド実験でそれを検証した。最初のインタビューでは、男性と同期的に演奏した女性歌手は、常に「目上のメンバーに正されている」と感じ、他のミュージシャンたちが「味方になってくれない」と感じていることがわかった。また、男性歌手は他のメンバーから「励まし」や「肯定的な支援」を受けたと答えたが、女性歌手からはそのような回答がなかった。
しかし、クリックトラックなどの新しい技術によって、バウルの歌手は非同期での録音が可能になり、女性たちはより安心感を覚え、自由に創造的な自己表現をすることができるようになった。ある女性は、非同期の録音を好む理由として、「歌っている間、男性ミュージシャンが私に対する優位性を主張することがなく(中略)私には完全な創造的自由があります」と述べた。
これらの観察に基づき、非同期で録音をする女性歌手は、同期で録音する女性歌手よりもパフォーマンスが向上し、このパフォーマンスの向上は創造性が高まることによってもたらされると筆者らは仮定した。