調査結果
この仮説を検証するため、女性歌手49人と男性歌手50人を録音スタジオに招き、非同期と同期の両方で録音をしてもらい、録音を完了する順番をランダムに割り当てた。その結果、非同期の録音では女性の演奏が17%高く評価され、その効果は歌唱の創造性の度合いによることが明らかになった。歌唱の創造性は、バウルの専門家が評価を行った(専門家は全曲に総合評価をつけるとともに、歌手による創造的な選択をすべてタイムスタンプで記録した)。
一人で歌う時の創造的な自由は、実験対象者へのインタビューでも確認された。非同期で録音をしたある女性は、こう述べた。「私は完全に自由でした。自分の好きなように歌えました。音を外してしまったところもありましたが、後半で正すことができたのです。完全に自由で、まるで鳥になって飛んでいるような気分でした」
男性のパフォーマンスは2つの条件で有意な差はなかったことから、非同期性は男性にダメージを与えることなく、女性にプラスに働くと考えられる。
今回の結果に多くの人が驚くかもしれないが、これは創造性に関する他の研究結果とも一致している。たとえば、創造性を発揮するためには「安全なコミュニケーションの環境」(「心理的安全性」に類似するもの)が重要であると強調する研究もある。同様に、ブレインストーミングをする際にも非同期性による創造性が有用であることを示す研究もあり、まず別々に作業し、その後でアイデアを出し合うと、最大の量と最高の質のアイデアが生まれるという。
これまでは、クリエイティブなチームの地位の低いメンバーに対する非同期性の価値が見落とされていた。筆者らの予想では、女性や社会的に周縁化された人々は、チームのコミュニケーション環境が安全であると感じないことが多いため、過度に批判されたり、じゃまされたりすることをおそれずに創造的自由を発揮することができない。その結果、非同期で仕事をしたほうが、より創造的に自己表現できる可能性が高い。
この結果は、映画のスタッフからマーケティングチームまで、クリエイティブな分野では有意義なものだ。ただし、創造性はイノベーションや製品開発と同義ではない。ビジネスプロセスの改善や複雑な製品の開発には、組織についての深い知識と、他のチームやチームメンバーとの交流が不可欠であり、そうした状況では同時性は有益だろう。
しかし、少なくとも一部のタスクを非同期で再構築することは、多くの組織でクリエイティブチームの不平等を解消する効果がある実現可能なソリューションだ。女性や社会で周縁化された人々の、創造的表現の自由を促進するうえで、非同期的な働き方は短期的なパフォーマンスを向上させるほかにも効果がある。職場に存在する不平等の根本原因の解消に影響を与える可能性もあるのだ。
非同期性がより大きな創造的自由を実現し、女性が離職を選ぶ代わりに仕事を続けるモチベーションを高めるかもしれない。さらに、女性のパフォーマンスを向上させることで、ジェンダーバイアスを助長する固定観念を払拭できる可能性もある。クリエイティブな場で過小評価されている人々の声を大きくすることで、非同期性は、より公平な未来の仕事への道筋を示すことができる。
"Research: Asynchronous Work Can Fuel Creativity," HBR.org, April 17, 2023.