激動の時代に中規模企業が資金調達する3つの方法
Yaroslav Danylchenko/Stocksy
サマリー:中規模企業は以前から、大規模企業に比べて資本取引で大きな金銭的な負担を強いられてきた。最近はそれに加え、金融市場の混乱で、中規模企業の資金調達を苦しめる新たな要因が生まれている。そこで資金調達先の新た... もっと見るな候補として考えられるのが、プライベートエクイティ会社を含む、まだ存在すら知らない投資・融資の担い手だ。本稿では、年間売上高が2500万~10億ドルの企業を指す中規模企業が資金調達先を探す方法とその際の留意点を解説する。 閉じる

中規模企業の資金調達を苦しめる新たな要因

 筆者は2年前に『ハーバード・ビジネス・レビュー』に寄稿した記事で、資本の取引において中規模企業のニーズが十分に満たされておらず、大規模企業よりも大きな金銭的な負担を強いられている実態を指摘した。最近はそれに加えて、金融市場の混乱が続く中で、中規模企業の資金調達を苦しめる新たな要因が生まれている。

 この1年余り、ビジネスリーダーたちに対して、金利の上昇、株式相場の下落、そして景気後退リスクの増大など経済の先行きに関する、ありとあらゆる警告のサインが点灯している。このような環境では、キャッシュこそが最強だ。嵐の中で会社を守るためには、キャッシュが欠かせない。また、そうした状況下で攻勢に出るためにキャッシュが必要になる場合もあるだろう。

 しかし、そのためのキャッシュはどのようにして確保すればよいのか。資本市場関連のデータベース会社ピッチブックによる2022年版の報告書「米国PEミドルマーケット・リポート」を参照すると、この10年ほどの間、プライベートエクイティ会社から中規模企業への投資は縮小し続けており、中規模企業への融資もこの1年で60%近く減少した。

 しかも、以前であれば商業銀行から融資を受けられただろうが、最近は昔のようにはいかない。レバレッジド・ローン(信用力が低い企業向けの融資)全体に占める銀行融資の割合は、2014年の時点では約80%に達していたが、いまは10%未満に低下している。その一方で、中規模企業向けの融資でノンバンクが占める割合は上昇し続けている。

 しかしながら、2023年の不確実な経済情勢の下で、ニッチ市場に特化した融資を行う金融機関、ビジネスディベロップメントカンパニー(中小企業向けの融資を行う会社)、ファミリーオフィス(富裕層の資産管理を担う会社)、そしてノンバンクなど、銀行以外の主体による融資を行うプライベートデットの市場は深刻な苦境に陥っている。プライベートデットの市場は10年近く急成長し続けてきたが、ここで厳しい現実を突きつけられるかもしれない。金利の上昇、そして契約書に盛り込まれる借り手の義務の厳格化により、企業の返済能力に悪影響が及ぶ可能性があるからだ。    

 一方、積極的な金融引き締め策が実行されて、世界規模の景気後退が現実味を帯び始めたことにより、プライベートデットの貸し手にとっては、新規の融資案件が減少しかねない状況になっている。そのような現象は、プライベートエクイティ会社においてすでに現実になっている。

 しかし、明るい材料もある。以上のようなことが起きている一方で、投資家は新たに大量の債券や株式資本を調達し始めているのだ。たとえば、先頃、アシュアード・ギャランティとサウンド・ポイント・キャピタル・マネジメントが合併することで合意した。4月初めの『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の記事にあるように、これにより470億ドル規模の企業向け融資ファンドが誕生することになる。株式市場より高い利回りを期待して、プライベートデット投資への投資家のニーズが高まっている状況を追い風にしたいと考えたのだ。

 有力なプライベートエクイティ会社も、融資に関して強気の姿勢を崩していない。2022年12月、プライベートエクイティ大手KKRは、自社の有限責任組合員(リミテッドパートナー)たちに対して、プライベートデットへの資金配分を増やすよう促した。有力投資会社ブラックストーンの融資部門も、この5年間で運用資産残高を2倍以上に増やしている。

 株式取得による出資に関しては、2022年版の「米国PEミドルマーケット・リポート」によると、中規模企業のプライベートエクイティ会社からの資金調達額は、2020年、21年、22年と3年続けて年間約1330億ドルと安定している。これは、2017年と18年の年平均950億ドルに比べると大幅な増加だ。

この状況は中規模企業にとって何を意味するのか

 一般的に、年間売上高が2500万~10億ドルの企業を指す中規模企業は、これまでの資金調達元だけに頼っていては、もはや最良の条件で資金調達できない。自社にとって好ましい条件で資金調達するために取引すべき相手は、まだ存在すら知らない投資・融資の担い手なのかもしれない。

 最近、売上高5000万ドル以下の企業4万社を顧客に持つ、ある全米規模の会計事務所の幹部が筆者にこう語った。「私たちの顧客企業の一つに、売上げの前払いという形態で企業向け融資を行っている会社があります。その会社では、債務を証券化して資金を調達しています。昨年は、証券を購入した投資家に額面の3.5%の利息を支払っていたのですが、いまはその利率が8.5%に跳ね上がっています。それに伴い、融資先企業の金利負担が増えることになります」

 当面、企業が資金調達を行う際の経済的負担が増すことは避けられない。向こう何カ月もの間、ことによると数年間にわたり、十分な資金調達ができなかったり、過度に大きなコストを負担せざるをえなかったりする可能性が高い。影響を受ける中規模企業は多いだろう。全米中規模企業センターの調べによると、毎年、米国の中規模企業のおよそ3社に1社が融資を受けようとするからだ。