問題を解決する

 情報負荷は、緊急の改革を実行するためのものや、悪習のせいだというかもしれない。しかし、負荷は「共有物の悲劇」である。経営陣には、すべての部門や役職者が直面している苦しみを軽減するために、いますぐ実行できることが2つある。

ステップ1:負荷の少ない組織文化づくり

 職場のコミュニケーションは、暗黙のルールに支配されているため、従業員は、どう行動するのが正解なのかわからないでいる。誰もがプライベートでも仕事でも、自分なりのコミュニケーション方法を持ち、メール、SMS、電話、アプリといったツールの好みは、どこにいてもその人について回る。

 変化が重なれば、「正しい行動」に対する認識は混乱するばかりだ。初めてのチームで仕事をすることになった従業員は、リーダーとのコミュニケーション手段として、勤務時間内にチームズでチャットしてもよいものなのか、それともメールだけが許されているのか、判断ができない。組織での情報の共有方法について共通理解がなければ、従業員は機能不全を我慢し、自分にはそれを表面化させる権限がないと感じる。そうして負荷は繰り返し、蓄積するのである。

 個人の選好を許し、組織的な機能不全を許容している企業もある。しかしそうではなく、情報の流れに対する自社の考えを明確にすべきなのだ。規範づくりは、さまざまな理由でメリットがある。チームの心理的安全性を高めたり、チャネルが濫用された時に、それを表面化し、対処できる権限を従業員自身に与えたりすることができる。

 規範づくりは、すでにどこの組織でも盛んに行われている。顧客中心主義の推進や、職場で責任ある行動を促すセーフティキャンペーンなどが記憶に新しい。情報共有のあり方に関しても、いまの「何でもあり」的なアプローチをもはや正当化できないと考える十分な根拠がある。

 コミュニケーション規範の指針となる一例として、ドロップボックスの「バーチャルファースト」ツールキットがある。同期と非同期のツールを組み合わせて使用することを推奨し、その使い分け方を提案している。つまり、チャネルごとに、どのような用途に使うべきか、逆にどのような用途には向かないかを明確に線引きしている。ガイダンスには、スラックではなく、メールを選択すべきケースと理由(「スラックは騒がしいので、重要なことを見逃したり、返信を忘れたりしがちです。重要なことなら、メールを使ってみましょう」など)や、どのようなことは会議で解決すべきかを説明している。

 新入社員や異動してきた社員も、最初からチームのチャネル構造が把握できれば、どこに当たるべきか理解でき、心構えなどに関する多くのストレスを軽減できる。

ステップ2:トップによるアカウンタビリティの強化

「消火ホースから水を飲む」(手に余る量を与えられること)とはよく知られた言葉だが、本当は誰がホースを握っているのかをさらに議論すべきだ。

 情報の負荷の場合、水はあらゆるところからやってくる。さまざまな部門のリーダーがばらばらに、スタッフの異動や商談の成約、最新予測などについて発表するため、どの情報が重要で、自分に関係が深いのかが判然としない。コミュニケーションやデジタル・トランスフォーメーションの担当部門は、絶え間なく新しいコラボレーションや生産性向上のツールを導入しているが、古いメッセージも依然として社内検索の上位に表示されている。

 負荷がどこから生じているのかをわかりにくくしている要因の一つは、視認性の欠如である。各部署の意識が自分たちのページやアプリ、マイクロサイトなどの狭い領域に向いてしまっている。そしてもう一つは、管理の煩雑さである。

 情報管理は、継続を要する面倒な作業であり、関係者全員のコミットメントが求められる。この二つの課題を同時に解決する一つの仕組みが、従業員の情報体験に関するシェアードガバナンス(共同統治)の構築である。関係者が情報管理に関する共通のビジョンに沿って行動することにより、ユーザーフレンドリーなシステムを共同で維持することが可能になる。

共通のビジョンに沿ったガバナンス

 シェアードガバナンスを構築するためには、まず従業員がどこでどのように情報を受け取っているかについて、共通理解を持つことが必要だ。これには、フォーカスグループやアンケートの実施、ダミーの受信箱をつくって従業員が1日に受け取るコンテンツの量を把握するとよいだろう。現実の従業員体験について共通の理解を得ることによって初めて、体験のあるべき姿を描くことができるのだ。

 シェアードガバナンスを構築する出発点として最適なのは、イントラネットである。どの部署も少なくとも一つはイントラネット上にページがあるため、これは共有されたリソースである。また、ユーザーである従業員自身が自己解決できるようにつくられたユーザー個別のセルフサービスポータルにより機能性が向上すれば、従業員の時間節約につながる。

 たとえば、ニューサウスウェールズ州計画環境局(NSW DPE)は最近、イントラネットをリニューアルした際、共通の理解をその基盤にした。コンテンツをつくる各グループの代表者とチャネルの所有者とが共同でリーダーを務めるコンテンツ協議会を設立し、コンテンツの基準づくりとその遵守の役目を担わせ、運用に当たっては監査を受けるようにした。監査では、リニューアルしたイントラネットの正確性を四半期ごとに確認し、使用体験を年2回レビューするようにした。アクセシビリティや機能性に関する問題を迅速に解決するのだ。その結果、2000以上あったイントラネットのページは500以下に統合され、低負荷な組織文化に大きく寄与している。

 自社のシェアードガバナンス体制をつくるには、まずチャネルや従業員体験の管理に最も責任のある部門(人事、コミュニケーション、ITなど)を招集する。大量の情報を扱う従業員が多い部署(カスタマーサービス、営業など)を加えることも重要だ。こうした部署の負荷は、顧客とのタッチポイントに直接影響を及ぼすからである。

 情報過多は、現代企業の「常時接続」「多ければ多いほどよい」というコミュニケーションアプローチの必然的な結果から生じている。残念ながらそれは、従業員のやる気を失わせ、意思決定の質を低下させる要因でもある。

 従業員やリーダーの誰もが、この現実の影響を受けているが、負荷の少ない企業文化をつくる責任は、企業のコミュニケーター自身にある。人間中心のコミュニケーション手法を構築し、強化するためには、エネルギー、専門知識、協調が必要である。

 どのような情報が必要で、どのような情報がじゃまなのかという現実からスタートし、全員が一丸となって、互いに与える情報の負荷を減らすことを目指す取り組みを促そう。


"Reducing Information Overload in Your Organization," HBR.org, May 01, 2023.