従業員の情報過多を組織的に解消する方法
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サマリー:仕事における情報過多は、現代企業の「常時接続」というコミュニケーション手法から自然に生じている。残念ながらそれは、従業員のやる気を失わせ、意思決定の質を低下させる要因でもある。本稿ではこの状態を改善し... もっと見る、企業が生産性を取り戻すためにはどのような取り組みが必要かを論じる。 閉じる

従業員の38%はコミュニケーション量が「過剰」と回答

 企業が高機能のメッセージングサービスやコラボレーションツールを導入して、情報の流れの改善をしようと努力しても、従業員が大量の情報を受け取る状況はますます普通のことになっている。

 ガートナーでは、情報過多のコスト、原因、そして解決策を探るために、約1000人の従業員と管理職を対象に調査を行った。その結果、従業員の38%が、所属する組織で受け取るコミュニケーションの量が「過剰」であると回答した。2022年に受け取った情報が2021年より減ったと答えたのは、わずか13%だった。

 同じ調査で、27%の従業員が、情報に「いくぶん」かそれ以上の負荷を感じていると回答した。従業員は、組織で扱われる情報源の数が多すぎて、受け取った情報を逐一確認することを無駄だと感じ、会議に時間を取られすぎて本来の仕事をする余力がない、と答えているのだ。

 知識経済においては、やむを得ないコストだと考えたくなるかもしれないが、過剰感は、実質的に生産性低下の原因になる。たとえば、情報過多と感じている従業員は、そうでない従業員に比べ、企業戦略を理解し、それに沿った行動を取っている人の割合が半分以下に低下する。

 さらに、情報過多と感じている人のうち、いまの会社に所属し続ける可能性が高いと回答した人は6%にすぎなかった。情報過多によるエネルギーの消耗が、離職の原因として問題視されている燃え尽き症候群(バーンアウト)や疲労、上層部への不信感などをさらに悪化させていることは容易に想像できる。

情報過多の問題は「量」ではなく「負荷」

 一般的な従業員の一日を考えてみよう。仕事開始早々、受信箱は、スレッド化された同僚とのやり取り、大量配信される社内ニュース、各種会議への招待、外部業者からの売り込み、悪質業者によるフィッシングメール、線引きの難しいプライベートの連絡などであふれかえり、以降ずっと似たような状態が続く。

 集中して生産性を上げるべき時間が中断され、注意を逸らされ、重要な情報をあちこちのプラットフォームから探し出すために時間を浪費する。

 つまり、情報量は情報過多の一因にすぎない。むしろ本当の問題は、情報そのものにある。具体的には、受け手が「情報へのアクセス」や「情報の解釈」に、どれだけよけいな作業を強いられるかに大きく関わっている。これを筆者らは、「情報の負荷」(information burden)と呼んでいる。

 負荷の高い情報とは、以下のように定義できる。

重複した情報:従業員と管理職の57%が「同一または類似のトピックに関するコミュニケーションを同時に複数受け取ることがある」と回答している。

無関係な情報:47%が「会社からの連絡は、自分の日々の仕事とは無関係だ」と回答している。

努力を要する情報:38%が「会社で受け取る情報に対応するために、よけいな仕事をしなければならない」と回答している。

一貫性のない情報:33%が「会社からのコミュニケーションは、一貫性がなかったり、相互に矛盾していることがある」と回答している。

 控えめに見ても、情報負荷に対処するために、従業員は1人当たり週3時間27分もの時間を費やしている。企業リーダーはこれを容認すべきではない。なぜなら、リーダー自身もその影響を受けているからである。

負荷を感じる危険性は管理職が最も高い

 変化の激しい仕事やハイブリッドな働き方などの複雑な仕事環境では、従業員が情報の負荷を感じるリスクは高くなる。それが際立って高いのが経営幹部である。

 筆者らの調査では、経営幹部の40%、マネジャーの30%が、高レベルの負荷を感じていた。これは、けっして軽視できることではない。負荷が大きいと答えた人は、そうでない人より、意思決定を後悔する割合が7.4倍、変革に対して回避的、否定的な反応を示す割合が2.6倍も高かった。

 明らかに危険な状態である。職場で情報を制御できるかどうかは、戦略を策定し、実現する能力の根幹に関わる問題だ。現在の情報管理のアプローチでは、多くのマネジャーが戦略に沿った活動をしているか疑わしく、重要な企業改革を回避し、誤った意思決定をしているのである。