一人称で話し、詳細をどこまで伝えるかを考える。最も重要なのは、他人の話ではなく、あなたの個人的なメンタルヘルスのストーリーを共有することだ。家族や親しい友人に関する話も有益だが、あなた自身の、「私」のストーリーがなければ、「私たち対彼ら」の物語を不注意に強調してしまう。つまり、「私たちはメンタルヘルスの問題を抱える人々をサポートすべきだが、私はまったく問題ない」というメッセージになりかねない。
肉体的に完璧に健康だという人がいないように、メンタルヘルスは完璧だという人もいない。私たちは誰もが、慢性的な症状や、特定のきっかけによる急性の症状を管理しながら、生涯を通じてスペクトラムを行ったり来たりしている。あなたは悩んだことがないと周囲に思わせることは(実際に診断名のつく症状は経験していないとしても)、同僚を傷つけかねず、自分たちとは違うと思わせ、劣等感を抱かせる時もある。あなたのストーリーが他人のメンタルヘルスにも関わるものなら、本人の許可がない限り詳細は匿名化する。
どこまで詳しく語るかは、話をする人が決める。現在まさに経験しているメンタルヘルスの問題ではなく、過去の出来事を話したいというリーダーもいる。いずれにせよ、何が起きたのか、あなたのメンタルヘルスは仕事にどう影響したのか、しなかったのかを共有し、働きすぎや自律性の欠如など、職場の要因があれば、それも共有する。
どのようにサポートを受けたかも重要だ。治療や投薬など、スティグマになりかねない経験も含めて語ると理想的である。サポートを求めたり、職場で初めて自分のメンタルヘルスについて話したりした後に、何が変わったかも話すとよいだろう。いまのあなたが知っていることを当時知っていれば、違うことをしたり、さらに早く行動したりしただろうか。
より大きな視野で考え、インクルージョンを目指す。あなたのメンタルヘルスの体験は、あくまでも、多くの体験の一つにすぎない。自分のストーリーがメンタルヘルスについてどのような物語の補強になっているかをよく考え、メンタルヘルスの課題は高い頻度で存在することや、誰の「せい」でもないこと、必ずしも人を暴力的にしたり能力を低下させたりするものではないことなど、建設的な視点を提供する。
あなたのメンタルヘルスのストーリーがユニークであるのと同じように、あなたのアイデンティティや、それがあなたの体験をどのように形成したかもユニークだ。私たちのメンタルヘルスに関する経験や直面する障壁は、性別、人種、民族、地域、LGBTQ+のアイデンティティ、宗教など、私たちのアイデンティティや背景と本質的に結びついている。
話せるようならば、自分のこれまでのメンタルヘルスに影響を与えた、目に見える、あるいは目に見えないアイデンティティを挙げる。制度的な障壁を乗り越えた、助けを求めたことでスティグマを抱えた、あるいは、コミュニティや強力な文化的アイデンティティなど明るい材料もあるかもしれない。ここでは、社会から疎外されたグループの人々が支配的なグループの人々を「教育」する責任を負うのではない。あなたのアイデンティティの側面を共有して、あなたのストーリーが特に共鳴しそうな人々をサポートすることを意図している。
職場のメンタルヘルスが重要な理由を挙げて、行動を呼びかける。ストーリーの最後に、職場のメンタルヘルスに取り組むことが重要である理由を話す。あなたの個人的な見解でも、統計や、メンタルヘルスにおける仕事の役割(よいものも悪いものも)など、何でも構わない。
精神的に健康な職場をつくるために、あなたや組織が取り組んでいることを共有する。福利厚生を列挙するだけでなく、文化や働き方、職場のメンタルヘルス対策があればそれらを説明する。なかなか事例が思い浮かばないなら、それは、さらにやるべきことがあるという意味かもしれない。基盤がしっかりしていなければ、個人的なストーリーを話すことはできない。
最後に、ほかの人々も会話に参加するように促す。職場の文化が心理的に安全かどうかを自分の体験談として話したり、メンタルヘルス関連のイベントや研修に参加したり、精神的な健康につながる習慣や働き方の手本を学ぶなど、さまざまな会話がある。
トーンを考慮する。個人のストーリーを話す時は、希望に満ちたトーンを維持する。これは特に、現在苦しんでいるかもしれない人々のサポートになる。自分たちのメンタルヘルスの問題も改善できて、仕事で成功しながら管理できるのだとわかれば、正当性が認められたと感じ、乗り越えようという意欲が湧いてくる。治療などのサポートに積極的に取り組むもうと思えるかもしれない。
一般論ではなく具体的に話すことは、あなたのメッセージが本物で、関連性があり、記憶に残るものであることを裏づける重要なポイントだ。ただし、自分のメンタルヘルスの問題について、特に自傷行為や自殺に関連するような詳細を過剰に伝えないように注意する。誤って誰かを刺激したり、危害を与えたりしてはならない。こうした話題を完全に避けるというのではなく、その点を意識してメッセージを構成するのだ。メンタルヘルスのどのような話題を取り上げるかを事前に明確にして、参加者が、自分が刺激される可能性のあるストーリーの共有を避けられるようにするという方法もある。
またユーモアを交える、真剣なアプローチを取るなど、自分が最も本物らしいと思える伝え方をする。完璧な言葉や表現でインパクトのあるストーリーをつくる必要はない、ただ正直であればよい。
やっかいな反応に対処する
多くの場合、同僚はあなたのリーダー・アライ・ストーリーに感謝を表し、同じような経験を共有しようとさえするかもしれない。しかし一方で、不快だと感じたり、同僚やマネジャーとしての役割を超えたものを求めて、あなたにアプローチする人もいるかもしれない。
あなたが共有した以上のことを話してほしいと頼まれても、必ずしも応じる必要はない。明かしたくないことや、まだ議論するのが難しいことがあると言えばよい。
あるいは、あなたを安全な場所と見なして、自分のメンタルヘルスの経験を共有したいと思う人がいるかもしれない。その場合、境界線を明確にする必要があるかもしれない。相手は、あなたにセラピストになってもらい問題を解決してほしいのだ、と早計に決めつけてはならない。ほとんどの人は、話を聞いてほしいだけだ。対応する時は、相手のことを気にかけていて、支えになりたいと思っていることをはっきり伝える。耳を傾けて、正当な感情だと認め、共感を示すことは、簡単にできるだろう。
その人のメンタルヘルスの問題が仕事に関連しているなら、あなたは助けられる立場にいるかもしれない。そのような立場でない場合は、自分はセラピストではないが、組織のメンタルヘルス関連のリソースをいつでも紹介できると伝えればよい。ただし、否定的な印象を与えないように、支援する意志と希望を繰り返し伝える。
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自分のメンタルヘルスについて語ることがどれだけ怖いことか、私は身をもって知っている。実際、マインド・シェア・パートナーズを設立するかどうかの決断は、私にとって最大のハードルだった。しかし、このような組織には、誠実で傷つきやすいリーダーが必要であるとわかっていた。
自分のメンタルヘルスについて話したことがなければ、特に仕事に関連する場では、緊張するのは当たり前だ。私はいまでも、自分のメンタルヘルスの問題を話す時は、過去の経験を気楽に振り返る時より、いまの経験を共有するほうが重圧を感じる。しかし、そうするたびに、私は誰かの役に立っていると感じ、また、他者に対してより共感できるようになる。
自分に優しくなり、自分に猶予を与えよう。こうしたストーリーテリングで重要なのは、職場におけるメンタルヘルスの問題を当たり前のものにして、サポートを求めるように奨励することだ。リーダーが「自分も同じだ」と示すことは、組織にオープンな文化と透明性をもたらし、本当の意味での文化の変化を促す。自分のストーリーを共有することは勇気が必要かもしれないが、リーダーシップの多くの行為と同じだ。
リーダーが先頭に立とう。