スウェーデンのネットワーク通信企業のエリクソンは、オムニバースのプラットフォームを活用して、都市全体のデジタルツインとシミュレーション環境を構築し、5G展開に最適なアンテナと電波伝播を把握、それらを実際の都市に適用している。同社はデジタルツインによって物理的な資産、プロセス、システムの仮想モデルを作成し、パフォーマンスに関しての知見を獲得し、改善すべき領域を特定することができた。
米国に3000以上の拠点を持つホームセンター大手のロウズは、従業員の顧客サポートを強化するため、オムニバースを利用してデジタルツインを導入した。小売店の従業員は、オムニバースに接続されたAR(拡張現実)ヘッドセットを使い、現実世界の中に組み込まれたデジタル世界を見ることができ、リアルタイムで在庫や商品情報にアクセスできる。デジタルツインによって顧客のニーズや嗜好に関するリアルタイムのデータを獲得したロウズは、顧客の要求を深く理解し、それに応えられるようになり、顧客体験が改善された。
エヌビディアのオムニバースのような強力なツールは、すでにクリエイター、開発者、ユーザーによる、大規模で多様なコミュニティの構築を実現している。そして、先進的でデジタルファーストを重視する企業は、私たちの生活や仕事に新しい可能性をもたらすような協働や創造的な活動を可能にしている。
デジタルアバターやバーチャルヘッドセットは盛んに喧伝されているが、メタバースの導入は一挙に実現するものではなく、私たちの暮らしや働き方を向上させるデジタル体験が段階的に積み重なって実現することを理解しなければならない。
メタバースの導入
メタバースの導入は、消費者が重要な役割を果たした過去のweb1.0や2.0の普及率とは異なる様相を呈するだろう。3Dの世界に慣れ親しんでいる若い世代やゲーマー以外の人たちが3Dインターネットの価値を理解するうえでは、企業や産業界が重要な役割を果たすかもしれない。
メタバースの普及がどれほど早く進むかは、若年層の利用や、政府がどれだけ支援し、勢いづけられるかに左右される。初期のデータでは、メタバースの普及率は米国よりもアジア、中東・北アフリカ地域、欧州がはるかに高い。これらの地域は、人々がメタバースの利用に必要なデバイスにアクセスしやすく、メタバース関連アプリケーションの開発や導入に有利な環境を持っている。
韓国政府は2023年5月、メタバースの取り組みを強化し、開発に向けた4830万米ドル規模のファンドを立ち上げた。メタバースを用いたエコシステム構築を加速させるため、さまざまなスタートアップのM&A(企業の合併・買収)の支援に乗り出している。メタバースが経済成長とイノベーションの重要な推進力となり、私たちの生活を一変させる可能性があると同政府は考えている。
ドバイ政府も、2030年までに世界のトップ10に入るメタバース経済圏を確立し、メタバースコミュニティのグローバルハブになることを目指し、次世代のインターネットを構築するスタートアップを積極的に誘致する「ドバイ・メタバース戦略」を発表した。
エルサルバドルもメタバースの成長に注力しており、大統領のナイブ・ブケレは、技術革新に対する課税を撤廃する法案を提出した。ブケレは、テクノロジー分野のイノベーションと投資を促進するために同法案が必要であり、この取り組みが雇用の創出とエルサルバドルの経済活性化につながると主張している。
機会に従う
企業や政府は、これまで想像もできなかった新しい可能性を解き放つ仮想世界を構築し、実験する機会を得ている。やがて私たちの多くは、仮想世界の中で活動し、デジタルツインをデザインし、広大なweb3の環境の中でサービスを提供することになるだろう。
メタバースはまだ始まったばかりだが、それによって私たちは世界中の人々とより有意義につながることができるようになる。メタバースは、生活をより生産的に、より充実したものにしてくれるだろう。いまこそメタバースを理解し、つながりを深め、効果的な協働を可能にし、個人の生産性と充実感を高める力を持つことを知る時だ。
"Yes, the Metaverse Is Still Happening," HBR.org, May 12, 2023.