吸収

主張に挑む

 どのようなテーマであっても、あなたの問題を解決する決定的な答えや、信頼すべき唯一の情報源や公式は存在しない。著者やデータ、論旨、書評を信頼して本を開いたとしても、「忠実な反対派」になるべきだ。著者と議論をするのだ。あらゆるビジネストピックには、相反するアドバイスがあることを忘れてはいけない。著者のアドバイスに委ねなければならないとしたら、あなた自身の考えはどうなるのだろう。著者はあなたの思考のパートナーだ。あなたのために考えるのではなく、あなたに挑むために存在している。自分の批判的思考をアウトソースしてはいけない。

読むか、流し読むか、読むのを止める

 序章を読んだら、その本をトリアージする。序章を読んで、自分に関連する知見に心を動かされなかったら、もう用はない。読むのをやめよう。心を動かされたら、「流し読む」レベルに達しているということだ。注意すべきは「読む」のではないということだ。以下に流し読みの方法を挙げる。

・目次を分析する
・見出しや章の要約を読む
・各章で自分に直接関係するものをじっくり探す
・図や吹き出しに注目する
・結論を読む

 1ページ目でも100ページ目でも、読み続けることの費用対効果が望むものでないとわかったら、読むのを止める。時間やその本を手に取ったことによる損失は諦め、放棄してよいのだ。本を読み終えることは、立派なことでもなければ、道徳的なことでもない。その費用対効果が逆に傾き、1ページ当たりの洞察の割合が思ったよりもはるかに高い場合は、読むに値する本かもしれない。第1章に戻り、徹底的に読む。そして、読み飛ばすレベルにならない限り、読み続ける。

応用

本を会得する

 読む価値のある本なら、それを会得する価値がある。ハイライトをし、余白にメモを書き、重要な洞察と批判のポイントの両方をリストアップすることで、得たものを要約することができる。オーディオブックの場合は、重要な洞察を得た時には中断してメモを取るか、ボイスメモを録音する。そのリストやファイルをアクセスしやすい形式で保存し、定期的に見返す。その洞察は、同僚やチームメンバーと共有すべきだ。学習した内容を身につけ、知識とスキルのポートフォリオに加えるのに、これ以上の方法はない。

活用法をテストする

 ビジネス書は、あなたが「何を」考えるべきかを教えるものではなく、「どのように」考えるべきかを教えるものだ。問題の枠組みをつくり、解釈し、解決するための視点を提供する。

 コンセプトや議論、理論、ツールを吸収したら、学んだことを応用して活用する方法を見つける。応用するまでは、コンセプトは未検証の仮説のままだ。たとえば、筆者が経営者になって間もない頃に読んだピーター・ドラッカーのThe Effective Executive(邦訳『経営者の条件』)には、このような文言があった。「外の世界における真に重要な出来事はトレンドではなく、トレンドの変化だ」。筆者はこの考え方を戦略立案チームに持ち帰り、トレンドスポッティングではなく、変曲点のスポッティングを実施した。この洞察は、実際に大いに役に立った。

量を否定する

 組織における人材のダイナミックレンジ(最小値と最大値の幅)について言えば、100人の凡庸な集団であるプレーヤーBが、1人の優れたプレーヤーAと同じでないことは明らかだ。プレーヤーAは質的に優れた方法で価値を創造し提供するため、単純な足し算にはならない。同様に、100冊の平均的なビジネス書が、1冊の優れたビジネス書の価値に匹敵することはない。リンクトインの投稿で、本の山と「今年読んだ100冊の本」という言葉を見ると、あと数冊読もうという気になるかもしれない。しかし、大切なのは量ではなく、質であることを忘れてはならない。投資した時間に対するリターンは、読んだ本の数ではなく、ポジティブな行動変容や、よりよい結果を生み出すツールの活用によって測られる。もう1冊本を読む代わりに、良書を2回読めばよい。

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 30年にわたるリーダーシップ開発の経験から、ビジネス書を読んだり聴いたりすることは、ビジネスリーダーが継続的な能力開発に取り組む最も一般的な方法であることを実感してきた。読書のコツは、必要性に応じて慎重に本を選択し、読書の時間を最大限に活用し、読むか、流し読むか、読むのを止めるかという消費形態を見極め、重要な点を応用するために書かれている内容をしっかりと会得することだ。


"How to Read a Business Book," HBR.org, May 17, 2023.