
何が起きても有利な立場に立つための思考法
想像してみよう。時は2019年、中規模企業のCEOであるあなたは、未来を見通せる水晶玉を持っており、数カ月後にパンデミックが起きて、世界がひっくり返ると知っている。もしそうだとしたら、あなたのビジネス上の対応は当時とどう異なるだろうか。
あるいは、2015年、成長中の小規模な組織でHRリーダーを務めていたとしたら、どうだろうか。あなたは「リモートワーク」のトレンドについて耳にしたことがあり、そうした実験的な取り組みに関心を寄せていたが、自社の上層部は乗り気ではない。水晶玉で未来を知ったあなたは、どのように彼らを説得するだろうか。
振り返ってみれば、こうした問いは早めに向き合っておくべき問いだったように思える。2023年のいま、世界はかつてないほど多くの未知の物事であふれ、あなたの関心とリーダーシップ、そして知恵が必要とされている。もちろん、適切な判断を下したいところだが、来週何が起きるかなど予測不可能で、ましてや来年や10年先の未来など見当もつかない。
そのような不確実性の高い環境において、世界中のリーダーや企業が同じ問いに向き合っている。すなわち、我々は変化にどう対処すべきなのか、そしてどうすれば不確実なものに優先順位をつけ、リスクを分散させ、未来を恐れなくなるのだろうか、という問いである。
筆者もよく、そうした質問を投げかけられる。筆者はフューチャリストとして、人々や組織が、今後待ち受ける未来やその未来をどう生きていくかについて、理解を深められるようサポートを提供している。
その際、何度も何度も同じような壁が立ちはだかる。それは、人は変化や不確実性をどう管理するかという話をしたがる一方で、変化や不確実性とともに生きるのは得意ではない、という壁だ。
人間と不確実性の関係は緊張をはらんでいる。私たちは「よくわからない」という状態を許容できない。そのため、新たな解決策を模索することが妨げられ、成功を収められずにいるのだ。
だが、よい知らせもある。「チェンジマネジメント」から「チェンジマインドセット」へと焦点を広げ、そのうえでシンプルなツールを使って未来との向き合い方を見直すことができれば、今後何が起きようとも有利な立場に立つことができる。なかでも中規模企業は、その規模と敏捷性のおかげで、特にそうした力学をうまく活用できる立場にある。
チェンジマネジメントからチェンジマインドセットへ
チェンジマネジメントの概念は、人間行動学と組織行動学に根差しており、1900年代初頭にまで遡る。歴史的に男性主導で行われてきたチェンジマネジメントは、年月を経るにつれて、無数のプロセスやシステム、表計算を取り込む形で進化し、その結果、人間はコントロール不能な力や要因も含め、すべてを自分たちがコントロールしているという感覚を抱くようになった。
しかし新型コロナウイルス感染症によるパンデミックという、表計算ソフトのセルやフレームワークのステップを超越した現象によって、そうしたマネジメントの欠点が浮き彫りになった。今後は、さまざまなシステムを再設計し、人間が万能である空想の世界ではなく、ありのままの世界と調和できるよう、多くの改善が必要となる。
問題は、特定のプロセスやフレームワークにあるというよりも、こうしたマネジメントツールで排除されているもの、特に変化や未知の物事への感じ方、そして不確実性に対するメンタル面の「筋肉」が発達しているか、という点にある。
変化を管理する能力は、恐怖心や不安を含め、自分自身を管理する能力にかかっている。そして、これらの要素はあらゆるものに影響を及ぼす。つまり、ビジネスにおいても、人生においても、だ。
恐怖心が意思決定にマイナスの影響を及ぼすことは、広く知られている。しかし、従来のチェンジマネジメントでは、恐怖心が考慮されなかったり、悪者扱いされたりすることが多く、その結果、重要な戦略や投資、意思決定の質が損なわれている。
簡単な思考トレーニングとして、あなたが目下、直面している変化に関連する課題を思い浮かべてみよう。たとえば、ハイブリッドな働き方において企業文化と忠誠心をいかに維持するか、進行中の気候変動にどう備えるべきか、あるいは新しいプロジェクトの立ち上げや、間近に迫るリーダーシップの移行をどう乗り切るか、といったことだ。
次に、いきなり「自分はどうすべきか」を考えるのではなく、次のような問いを自分に投げかけてみよう。自分は希望と恐怖心のどちらに基づいて、この問題に取り組もうとしているのか。何が私を突き動かすのか。この変化について私はどう思っているのか。それはチームメートや直属の部下の志向性とどう違うのか。
こうした問いが共有されていないせいで、緊張が走ったり、障害が生じたりするケースがあまりに多い。一方、共有できている時には、みんなが互いへの理解を深め、チーム文化が強化されるだけでなく、意思決定も劇的に改善される傾向が見られる。チェンジマインドセットがチェンジマネジメントを推進するのであって、その逆ではない。