「何が起きるか」から「もし~だったら」へ

 確実性を追及し、唯一の答えを探すプロセスによって、ほかの解決策から生まれうる、より大きな世界が見えなくなってしまうことがよくある。そうした「目隠し」を外して、これまで見逃していたものを見られるようになったら、何と素晴らしいことだろうか。

 その意味で、多くの企業に一貫して見られるつまずきの原因は、唯一の未来を必死で予測しようとしてしまうことにある。なぜつまずいてしまうのか。それは、未来は一つではないからだ。どのような人にも、(自覚しているかはともかく)さまざまな可能性のある未来が待ち受けている。そして、あらゆるタイミングにおいて、無数の可能性を秘めた未来のうち、いずれかが現実になりうる。さらにややこしいことに、ある特定の未来が現実になると、その時点でそれは未来ですらなくなり、「現在」になる。

 こうした難しい状況を乗り切るカギは、ただ一つの未来を予測するのをやめ、さまざまな形の未来に備えることだ。そして、そうしたスキルを身につける最善の方法の一つとして、シナリオプランニング(またはシナリオマッピング)と呼ばれるプロセスがある。このシンプルながら強力なツールは、チームや組織が「今後起こりうること」を想像するための支援ができるよう設計されている。「何が起きるか」から「もし~だったら」への転換である。

 シナリオマップでは通常、不確実性に関する2つの主要な変数を、縦横の座標軸で表す。たとえば、組織文化に自動化が与える影響が気になるとしたら、X軸を自動化(人間に取って代わる形の自動化から、人間に足りない点を補う形の自動化に至る座標軸)、Y軸を組織文化(脆弱、有害、低信頼の文化から調和的、インクルーシブ、高信頼の文化に至る座標軸)としてみよう。2つの軸に基づき、4つの象限を設定したら、その中に起きる可能性のあるシナリオを書き入れよう。

 重要なのは、この中のいずれかのシナリオが唯一の未来を示している、ということではない。シナリオマッピングは、未来に起こりうるさまざまな展開をすべて想像して思考をめぐらせ、それぞれに向けて準備を整えるのをサポートするツールだ。つまり、未来について考える筋力、すなわちチェンジマインドセットの重要な機能である。

中規模企業は変革に極めて適している

 どのような規模の組織も、何らかの形で変化と格闘している。中規模企業も例外ではないが、一方で中規模というサイズには競争上の優位性がある。

 中小企業はリソースが限られており、大企業は官僚主義や「これが我が社のやり方だ」という規範から逃れられないものだ。これに対し、中規模企業は変化や不確実性への効果的な対処法を見直すのにぴったりの規模といえる。

 チームのチェンジマインドセットの開発や強化を後押しするのは、けっして無理な話でも、古臭い挑戦でもない。変化に対する各自の志向性についてチーム内で議論することで、埋もれていたスーパーパワーを解き放ち、社内の流動性を高める新たな道筋を生み出すことが可能になる。また、戦略立案プロセスにシナリオマッピングを組み込めれば、組織全体にまたがる幅広い人材を無理なく呼び込むことができる。

 こうしたステップすべてが、あなたの「フラックスキャパシティ」(変化に対する耐性)を高め、将来の成功に役立つはずだ。


"Change Management Requires a Change Mindset," HBR.org, May 18, 2023.