問題の分解

 問題の分解とは、複雑な問題を、より小さく対処可能な部分的問題に分解することだ。これが特に重要となるのは、多面的な問題に取り組んでいて、あまりに複雑なため有益な解決策を生み出しにくい場合である。

 イノセンティブが主催した、筋萎縮性側索硬化症(ALS)への取り組みを例に考えてみよう。ここではALSの治療法を見つけるという広大な問題への解決策を募集するのではなく、その部分的要素に的を絞った。すなわち、この病気の進行を検出して監視する方法を募集したのである。

 その結果、ALSの進行を検査するバイオマーカー(生理学的指標)が初めて開発され、筋組織に流れる電流の測定に基づく、体を傷つけずコスト効率のよい検査方法が生まれた。

 問題の分解によって、AIがどれほど向上するのかを筆者は試してみた。ここで用いた問題は、堅牢なサイバーセキュリティ体制の導入という、タイムリーかつ一般的な組織的課題だ。

 ビング(Bing)のAIが示した解決策は、あまりに大まかで一般論的であり、すぐに役立つものではなかった。ところが、課題を部分的問題──セキュリティポリシー、脆弱性評価、認証プロトコル、従業員への研修など──に分解した後には、解決策は著しく向上した。

 機能分解や作業分解構成図といった手法は、複雑な問題を視覚的に表現し、個々の要素とそれらの相互関係を特定する作業を簡略化するのに役立つため、組織には最も適している。

問題のリフレーミング

 問題のリフレーミングとは、問題を見る視点を変えて別の解釈を可能にすることだ。問題をさまざまな形にリフレーミングすることによって、潜在的な解決策の幅を広げるようAIを導くことができる。これにより人間は最適な解決策を見つけやすくなり、創造性を阻む障害を克服できるようになる。

 GEヘルスケアで「イノベーション設計者」を務め、最先端のMRIスキャナーの設計を担っていたダグ・ディーツの例を考えてみよう。彼は病院への訪問中に、MRIスキャンを待ちながらおびえている一人の子どもを目にした。そして、検査を受ける子どもたちの実に80%が、この恐ろしい体験に耐えられるよう鎮静剤を必要としていることを知った。

 この発見が、彼に問題のリフレーミングを促した。「子どもたちにとって、MRIという恐ろしい体験を、ワクワクする冒険に変えるにはどうすればよいだろか」

 この斬新な視点が、GE製スキャナー「アドベンチャーシリーズ」の開発につながり、小児患者への鎮静剤の使用率は15%にまで劇的に下がり、患者の満足度は90%高まり、スキャナーの効率性も向上した。

 ここで、次のように想像してみよう。従業員は、社屋の駐車場の空きが足りないことに不満を表明している。最初のフレーミングでは、駐車スペースを増やすことが焦点となるかもしれない。だが従業員の視点に立って、駐車スペースを探すのがストレスである、または通勤の選択肢が限られているといった見方で問題をリフレーミングすることで、別の解決策を探ることができる。

 実際に、筆者はチャットGPTに対し、最初のフレーミングと代替のフレーミングを用いて駐車スペースの問題の解決策を生み出すよう指示した。すると前者では、駐車場のレイアウトや配分の最適化によって新たなスペースを見つけることを軸とする解決策が出された。後者では、ほかの交通手段、持続可能な通勤、リモートワークなどを奨励することを含め、幅広い解決策が生み出された。

 問題を効果的にリフレーミングするために、ユーザーの視点に立つ、問題を表現するための類推(アナロジー)を探す、抽象化を用いる、問題を定義する際に積極的に目的を問い直す、または抜け落ちている要素を明らかにするなどを検討してみよう。

問題の制約の設計

 問題の制約の設計は、解決策の探索に伴うインプット、プロセス、アウトプットの制約を定義することにより、問題の境界線を明確にすることが焦点となる。制約を用いることで、目の前のタスクに対する有益な解決策を生むようAIを導くことができる。

 タスクが本質的に生産性指向であれば、コンテキスト、境界線、成果要件の概要を示す具体的かつ厳密な制約を適用することが、より適している場合が多い。

 一方、創造性指向のタスクについては、制約を課したり、変えたり、外したりして実験することで、より幅広い解空間(ソリューションスペース)の探索と、斬新な視点の発見が可能になる。

 たとえば、ブランドマネジャーはすでに、有益なソーシャルメディアコンテンツを大規模に生成するために、レイトリー(Lately)やジャスパー(Jasper)など複数のAIツールを使っている。これらのコンテンツと、異なるメディアおよびブランドイメージとの整合性を確保するために、彼らは長さやフォーマット、トーン、ターゲットオーディエンスに関する詳細な制約を設定する場合が多い。

 ただし、真のオリジナリティを追求している場合は、フォーマットの制約を外したり、型にはまらないフォーマットの成果物を採用したりしてもよい。

 格好の例として、寄付型クラウドファンディング・プラットフォームのゴーファンドミーによる「支援がすべてを変える」(Help Changes Everything)キャンペーンがある。同社は1年を振り返るクリエイティブコンテンツの制作に際し、寄付者への感謝を表明して感情を喚起するだけでなく、ありふれた年末用のコンテンツとは一線を画すものを目指した。

 これを実現するために、同社は斬新な制約を設けた。ビジュアルはAI生成による壁画風のストリートアートのみを使うこと、そしてすべての募金キャンペーンと寄付者を登場させることである。ダリ(DALL-E)とステーブル・ディフュージョンが個々の画像を生成し、感情のこもった動画へと変換した。その結果、視覚的に統一された印象的な美しさが広く絶賛された。

 以上を総合すると、問題の診断、分解、リフレーミング、制約設計のスキルを磨くことは、AIの成果をタスクの目的に合致させ、AIシステムとの効果的な協働を促進するうえで不可欠である。

 プロンプトエンジニアリングは短期的には注目を維持するかもしれないが、持続可能性、多用途性、転用性に欠けるため、長期的な有効性は限られる。言葉の完璧な組み合わせをつくることを過度に重視すると、逆効果にさえなりかねない。問題そのものの探求がおろそかになり、創造のプロセスにおける人間のコントロール感が低下する可能性があるからだ。

 むしろ問題設定をマスターすることが、不確実な未来を高度なAIシステムとともに進んでいくためのカギとなりうる。その重要性は、コンピューティングの黎明期におけるプログラミング言語の習得と同じくらい高いかもしれない。


"AI Prompt Engineering Isn’t the Future," HBR.org, June 06, 2023.