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返金を受けると別の商品を購買しやすい
ショッピングにおける商品の返品は、小売業者にとって大きな課題である。2022年、米国の小売業では、商品購入後の返品率は16.5%、返品総額は8160億ドルに達した。
返品による売上げの減少を減らすための戦略として一般的に、クチコミやFAQなどで商品情報を充実させて返品の可能性を減らすことが挙げられる。また、送料の自己負担化や返品期間の制限などにより返品コストやその手間を増やすことがある。
だが、商品情報を充実するとしても小売業者にとっての負担が大きいし、返品コストを高めるとしても消費者の負担が大きい。そのような中、筆者らは最近の研究からすべての当事者にとってプラスになる方法を明らかにした。それが返品の過程で別の商品を提案して購入してもらうクロスセルである。
6つの実験結果からわかったのは、消費者は返金される金額をすでに手放したものとみなしているため、その資金を別の商品の購入に充ててもあまり苦痛を感じないことだった。実験参加者らは、ボーナスが出た時よりも、返品によって資金を得た時のほうが支出する可能性が高かった。
また、宝くじの当選金や税金の還付金などの予期せぬ収入と比べても、返金されたお金を使う可能性のほうが高かった。筆者らはこれを「返金効果」と呼んでいる。たとえば、ある実験室での実験では、参加者全員に4ドルが支給された。一部の参加者には、それでストレスボール(手のひらで握れるストレス解消用のボール)を買ってもらった。のちにそれが返品できると知らされると、ほとんどの参加者がストレスボールを返品した。
一方、対照群の参加者には当初、何も購入させなかった。そして、すべての参加者に対して、4ドルを使わずにキープしておくか、スターバックスの5ドルのギフトカードを割引価格で購入するかを選択させた。すると、対照群の48%しかギフトカードを購入しなかったのに対し、ストレスボールの返金を受けた参加者はその購入が78%に達した。
同様の実験をオンラインの参加者に対して行った。この場合、返品するのは大型ディスカウントストア(ベスト・バイやコールズ)のギフトカードだ。すると、対照群でスターバックスのギフト券を購入したのは、わずか10%だったのに対し、大手ディスカウント店のギフト券を返品して、スターバックスのギフト券を購入した人は25%に上った。
返金効果のダイナミクス(いつ、なぜ、どのように機能するか)を理解した小売業者は、業界において長年悩まされきた頭痛の種の一つを軽減できる。本稿では、返金効果を最大限に活かすために小売業者が留意すべき3つのポイントを紹介しよう。
クロスセリングのチャンスは
返金が実行される前の返金過程に訪れる
クレジットカードや銀行口座に資金が返金された後では、返金効果による売上増の可能性が大幅に低下する。なぜか。返金効果は、元の商品の購入資金が自分の手元から離れたことを思い出させる「印」をつくり、維持することによって起きる。筆者らの研究では、返金された資金が別の資金源から得たものと一緒になると、この「印」が消えて、消費者の支出行動が通常のそれと変わらなくなる。
たとえば、スニーカーを返品した実験参加者は、その返金額をまだ受け取っていない時に、その資金でシャツを購入する可能性が高かった。ところが、その金額がすでに自分の口座に返金されている場合、シャツを購入する可能性は、最初からオンラインで買い物をした参加者と大きく変わらなかった。
こうしたクロスセル戦略をすでに効果的に利用している小売業者もいる。アマゾン・ドットコムは、返金をギフト券で受け取るかどうか選ばせるようにしている。それを断ったユーザーには、銀行口座やカードへの返金が実行される。男性用衣料品のトッド・スナイダーは、返金を実行する前に、返金額で別の商品を購入できるようにしている。そして、返品する商品が実際に送り返された時点で、差額が入金される。
こうしたクロスセル戦略は、顧客が返品による返金を実際に受け取る前に、返金額を使って買い物を済ませるため、成功する可能性が高い。