返金効果は、消費者が損をしたと思う時だけ機能する

 筆者らの研究によって、返金効果を機能させる「印」が生まれるのは、消費者が元の商品やサービスを本気で購入した場合に限られることがわかった。そのため「購入前に試着してみる」戦略では、その商品が返品された場合に返金効果が生まれる能性は低い。消費者は返品する商品に対して支払いをする気がもともとないからだ。

 たとえば、1足は返品するつもりで、2足の靴を購入して試着した実験参加者の場合、その返金でジャケットを購入する可能性は、単純にそのジャケットを見かけて購入するつもりの対照群の参加者と変わらなかった。これに対して、購入した時は返品するつもりがなかった参加者の場合、靴の返品により得る資金でジャケットを購入する可能性が高かった。

返金効果は商品カテゴリーを超える

 返金される資金は、すでに自分の手元を離れたように感じられるため、返金効果は、同じカテゴリーの商品にも、異なるカテゴリーの商品にも機能する。

 たとえば、第5の実験参加者の場合、ワインを返品したことによる返金を、食料品店のギフト券やアパレルブランドのギフト券の購入に充てる可能性は、それぞれのギフト券を購入する可能性よりも高かった。これは、さまざまな商品カテゴリーを取り扱う小売業者にとっては朗報だ。

 返品過程で、異なるカテゴリーの商品販売(アップセル)や商品交換のような販売戦略を取ることも、同様に返金効果の恩恵を受けられるはずだ。これは、返品コストを高めて返品率を下げようとするよりも、顧客との関係を管理するうえで好ましい選択だろう。この市場には、新しい企業が参入してきている。たとえば、ループリターンズは、返品過程で1500のショッピファイ商品のクロスセル、アップセル、そして商品交換を後押しし、収益の喪失を28%抑えた。

 ここから小売業者が学べることは何だろうか。それは、厳しい返品コストを強いて顧客を(場合によっては永久に)遠ざけるような手法を取るのではなく、返金効果に基づいた返品ポリシーや慣行を構築することだ。そうすれば、消費者と小売業者の両方に恩恵をもたらす形で、返品による売上げ減少を減らすことができるだろう。

"How Retailers Can Capitalize on the 'Refund Effect'," HBR.org, June 15, 2023.