これからの人材育成を読み解く5つのトレンド
Illustration by Tyler Comrie
サマリー:景気後退の懸念が高まりつつある一方で、雇用市場の需給が逼迫している。このままでは研修予算の削減は避けられず、企業はより的を絞った形で従業員への投資を行い、そのスキルの格差を効果的に埋める必要がある。筆... もっと見る者は、これからの人材育成を読み解くうえでの5つの変化をとらえることが重要だと指摘する。 閉じる

従業員教育における5つの変化

 企業や人事のリーダーたちは長い間、大規模公開オンライン講座(MOOC: Massive Open Online Course)の導入で、従業員教育のレベルアップが図れると期待してきた。しかし残念なことに、それだけでは十分ではない。特に、最も必要としている人々にその効果が不十分であるというエビデンスが示され続けている。

 テクノロジーの進歩や、革新的な資金調達の仕組み、旧来のアプローチが現代のニーズに合わせて再構築されたおかげで、企業には現在、多くの選択肢がある。以下に、この分野における5つの大きな進歩を紹介したい。

1. デジタル時代の見習い制度

中世の慣習を通じて多くの従業員がキャリアアップの機会を得る

 見習い制度(アプレンティスシップ)は、その起源が古代にまで遡るもので、おそらく従業員教育の最も古い形態である。これまでに米国建国の父ベンジャミン・フランクリンをはじめとする傑出した人材を輩出しており、米労働省の統計によると、米国では現在58万人以上の実習生(見習い制度の登録者)が働いている。これは過去10年間で103%増加している。

 重要なポストの恒常的な人材不足に悩む企業にとって、見習い制度は効果的な解決策となる可能性がある。この制度は歴史的にブルーカラーの職種と関連付けられてきたが、デジタル・ハイテク分野ではホワイトカラーの職種を補充する方法として、利用が増えている。米労働省によると、IT・通信分野の技能実習生は2011年から2020年の間に300%以上増加し、サイバーセキュリティ分野の技能実習生は同期間に600%増加した。

 このトレンドは、ソフトウェアエンジニアリングやデータサイエンスのような急成長分野において、大企業に代わって実習生を採用、支援、訓練するサービス企業が増加することでもたらされた。そうした企業の一つ、英国を拠点とするマルチバースの評価額は最近17億ドルに上り、1万人の実習生にサービスを提供したと公言している。

 同社に従業員のアップスキリングを依頼している、航空機エンジン製造ロールス・ロイスのデジタル製造部門チーフを務めるラシタ・ジャヤセカラは、「私たちは長い間、見習い制度の有効性を信じてきましたが、テックやデジタル関連の仕事には特に効果的だと実感しています」と語る。「実習生はハッカソンやプロジェクト業務を通じて実地訓練を行っているため、通常の研修では得られない理論と実践の融合が可能になり、社内で必要とされるスキルを継続的に磨くことができています」

 マルチバースの別の顧客である大手通信会社ベライゾン・コミュニケーションズは、ソフトエンジニア職の補充に見習い制を導入しており、見習いプログラム終了後、初期の受講生の95%が同社でのフルタイム勤務のオファーを受け入れたと報告している。このベライゾンのプログラムの狙いは「ソフトウェア職への就職のハードルを下げると同時に、デジタルイノベーションを通じてビジネスの原動力となる真に優れたソフトウェア開発者を育成することです」と、同社CIOのシャンカル・アルムガベルは述べている。

 見習い制度は、すべての研修ニーズに適しているわけではない。その一つが、かなりの時間の投資が求められることだ。米国では、正式な見習い期間は通常4年間である。また、国によっては、厳しい規制を伴うこともある。たとえば英国では、政府の見習い制度助成金制度があまりに厳格で企業のニーズに合っていないと批判されている。

2. 受講料還付に代わる新たなアプローチ

エリート向けの福利厚生が全従業員向けへと広がった経緯

 大企業は以前から、従業員が継続的な学習をするための費用を負担してきた。ただこれまでは、このような福利厚生の対象は、たとえば管理職向けのエグゼクティブMBAを取得するようなごく一部のホワイトカラーの従業員に限られていた。あるいは、従業員がいったん自腹で受講料を支払い、修了後に払い戻しを受けるしかなかった。

 労働市場が変化するにつれ、店舗スタッフ、バリスタ(カフェのバーテンダー)、ドライバー、時間給労働者など、現場の最前線で働く従業員をつなぎ止める方法として、受講料の給付を提供する企業が増えている。それに呼応する形で、研修事業者、企業、従業員、そして(場合によっては)政府の間を調整する新しいタイプの企業が出現している。従業員は自分に合った研修プログラムを見つけるためのコーチングやアドバイス、サポートを受け、研修プログラムの費用は企業が負担する。

 たとえば、小売り大手のターゲットは2021年、この成長分野の大手である従業員向けオンライン学習プラットフォーム提供会社ギルドと提携し、「ドリーム・トゥ・ビー」と呼ばれる受講料支援プログラムを発表した。チーフ・ダイバーシティ&インクルージョン・オフィサーのキエラ・フェルナンデスは「ターゲットには20年以上前から、従来型の受講料還付制度がありました。現在は、ギルドとの提携によるドリーム・トゥ・ビーを通じて、40以上のスクール、カレッジ、大学の授業を(中略)自己負担なしで受講できます」と話す。2023年4月現在、2万5000人以上の従業員がこの制度の利用を承認されていると言う。

 制度設計がうまくいけば、企業にとって受講料補助制度のメリットは明らかだ。たとえば、ファストフードチェーンチポトレ・メキシカン・グリルの最高財務責任者(CFO)であるジャック・ハータングはCNBCの取材に対し、「当社の受講料補助を利用する従業員は、(そうでない従業員に比べて)会社に留まる割合が3.5倍、管理職に昇進する割合が7倍高い」と語っている。

 しかし、調査によると、従業員の84%が受講料還付制度を高く評価している一方で、対象となる従業員のうち平均2%しかこの制度を利用していない。これは、企業がこの強力なツールを活用するために、もっと努力しなければならないことを意味している。