3. 学習体験プラットフォームへの移行

従業員が次に何を学ぶべきかをどう知るか

 従業員の学習履歴の整理や追跡は、面倒な作業である。この作業は長年、LMS(Learning Management System)と呼ばれる学習管理システムを使って行われてきた。LMSは通常、プレゼンテーション、ビデオ、テキスト形式のeラーニング教材が登録された比較的単純なツールである。ほとんどの大企業は導入しているが、実際に時間を費やしている従業員は極めて少ない

 ここ数年、新しいツールの波が到来し、LMSはLXP(Learning Experience Platform)と呼ばれる学習体験プラットフォームに取って代わられつつある。これには、スキル評価や、ネットフリックス方式の「次に何を学ぶべきか」についておすすめするリコメンド、社内SNSなどの機能が備わっている。さらにLXPは、「研修プログラムを管理するだけでなく、個人にとって適切な学習を可能にする」と、LXP大手のディグリード戦略担当上級副社長トッド・タウバーはいう。業界アナリストのジョシュ・バーシンは、LXPの市場規模は2018年の2億ドルから5億ドルに拡大すると予測している。

 顧客もこのモデルを評価している。ディグリードを利用している、人材派遣会社TEKシステムズの最高教育責任者であるクリス・ハリーは「さまざまな従業員教育プログラムをディグリードに移行したおかげで、エンゲージメント率と満足度が過去最高を記録しました」と述べる。TEK社の従業員の96%がディグリードにアカウントを持ち、毎月40~50%の従業員が積極的にこのプラットフォームを利用しており、「これまでに見たことのない格段に高い利用率だ」とハリーは言う。

 このような成果を得るには、単に技術を購入するだけでなく、本腰の投資が必要である。たとえば、ディグリードの別の顧客である通信機器大手エリクソンは、プログラムを社内で本格的に展開するための社内推進役を雇い、大規模な社内マーケティングキャンペーンを打ったと述べている。

4. コーチングの民主化

誰もがキャリアのシェルパ(案内人)を持つ方法

 プロフェッショナル・コーチングは、働く人の学びや自信、目標達成能力を高める方法としてよく知られているが、一般的に高価なツールであり、上級管理職のためのサービスである。お金があったとしても、コーチを見つけることが難しい場合もある。

 そのような中、テクノロジーを活用してコーチを探し、マッチングし、コーチングを受けることを容易にする新たなプラットフォームや企業が登場した。各従業員がコーチに何を求めるべきかを評価し、それに適した経験と知識を持つコーチを引き合わせ、さらにはデジタルプラットフォームを通じてコーチングセッションを実施するためのツールまで提供している。

 この分野は成長中だ。国際コーチ連盟によると、2021年の現役コーチ数は7万1000人で、2016年から33%増加した。投資家は今後も成長が続くと予想している。新興オンラインコーチング企業のベターアップは、新興コーチング事業者への投資熱の高まりもあり、2021年に50億ドルの評価額で3億ドルを調達した。

 この成長は主に、大企業が従業員に広くコーチングサービスを提供することによってもたらされている。フランスに本社を置く食品会社ダノンは、コーチハブと提携し、250人の従業員に福利厚生としてコーチングを提供している。オランダのダノンでダイバーシティ&インクルージョンを率いるマキシム・オランドは「こうしたコーチングセッションは、従業員にとって大きな付加価値となっています(中略)私たちが注視している指標のひとつは、各従業員がコーチとともに設定した個人目標に向かってどの程度前進しているかということです。この指標の平均点は5点満点中4.9点です」と述べている。

 世界的なエネルギー企業である米シェブロンは、ベターアップを通じて、世界中の7000人の管理職にコーチングセッションを提供している。「ベターアップと提携する前は、社内のコーチングリソースを使ったり、複数の外部コーチングサービスを利用したりしていました」とシェブロンの最高人事責任者であるロンダ・モリスは説明する。「ベターアップのバーチャルコーチングモデル(中略)は、当社のコーチング文化を成熟させ、コーチングを望むすべての人が利用しやすいものになりました。コーチは、従業員に会うために出張する必要がなくなりました。ベターアップを利用した従業員からは、ポジティブな感想をよく聞いています」

 コーチングセッションは本質的に個人的な体験であるため、セッションの焦点を企業にとって最も重要なトピックに向けることは難しいかもしれない。シェブロンでは、四半期ごとに、コーチングを受けたリーダーの目標達成能力や有効性を従業員に評価してもらい、その成果を測定している。「リーダーシップの有効性は、組織全体で常に最高得点を獲得しているカテゴリーの一つです」とモリスはいう。「これは、ベターアップのサービスが当社の従業員と企業文化にプラスの影響を与えているということです」

5. コホート型コースの台頭

オンライン学習でいかに真のスキルを身につけるか

 オンライン学習に関していえば、ほとんどの受講者は受け始めたコースを最後までやり遂げていない。それは主に学習体験が非同期だからである。自制心と勤勉さがなければ、ひとりで大量の学習教材をこなすのは難しい。これは、会議の数や気を散らす存在が急増している今日の職場では特に困難である。

 現在、修了率を向上させる方法として、「コホート型コース」(cohort-based course)と呼ばれる新しい学習形態のプログラムが登場している。これは、学習者がグループで受講するもので、開始日と終了日が決まっており、定期的に宿題が出され、講師がオンラインで定期的なグループディスカッションを行う。このように組織だった形式の中で、教材を利用した独習を行うため、コースを修了しやすく、学んだことをコース期間中に実践する機会も得られる。この分野のパイオニアの一つ、オルトエムビーエーによると、受講者の修了率が96%に達したという。

 ボストン コンサルティング グループ(BCG)は、エメリタス(筆者の勤務先)と提携して、コホート型コースを導入している代表的な企業の一つである。BCGのグローバル・ラーニング&チーミング担当エグゼクティブディレクター、リディア・ジャスコは、この形式が同社のようなプロフェッショナルサービス企業にとって特に効果的であると語る。

「コホート型コースには、標準的なオンライン学習よりも、意欲を引き出す仕組みとサポートがあると感じています。講師との『オフィスアワー』(質問相談時間)や他コホートとのグループディスカッション、毎週こなす短いビデオと練習問題、その組み合わせおよび頻度が続けやすさにつながっていると社員が評価しています。このような学習や能力開発の機会によって、私たちは最高の人材を引きつけ、維持し続けることができるのです」

 世界的な金融機関であるHSBCも最近、コホート型のオンラインコースを試験的に導入したが、初期の結果はまずまずであった。同社の人材能力担当グローバルヘッドであるデイビッド・モリスは、次のように語っている。「当社の市場の広さと複雑さを考えると、オンラインで掘り下げた学習を行えるようにすることが課題の一つでした。初期の結果を見ると、コホート形式のオンライン研修で、修了率、自信、能力といった重要な指標で大幅な改善を実現していることがわかりました」

 この形式の欠点は、効果を大きく生むライブ学習の部分に相当なコストがかかることである。数千のコースから選べる標準的なオンライン学習サイトの受講料は、月額約30ドルから60ドルである(ほとんどの学習サイトは、大幅なボリュームディスカウントも提供している)。一方、コホート型コースは、1コース当たり500ドルから5000ドルかかる。つまり、コホート型学習がすべての従業員の選択肢になる可能性は低く、企業は誰が最も恩恵を受けられるかについて慎重に判断しなければならない。

 景気後退の懸念は高まる一方で、雇用市場は依然として需給逼迫にあるという異常な経済状況にある。研修予算が圧迫されるのは避けられない中で、企業はより的を絞った方法でスキル格差に対処する必要がある。上記の5つのアプローチを参考に、MOOCの枠を超えて、従業員に適した教育制度を見つけてほしい。

編集部注:ハーバード・ビジネス・パブリッシングは、エメリタスとコンテンツ制作・配信において提携関係にあるが、本記事の筆者および編集者は、この提携には関与していない。

"5 Ways Companies Are Addressing Skills Gaps in Their Workforce," HBR.org, June 15, 2023.