人と組織の課題解決の「7つのステップ」
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サマリー:いま、人的資本経営のかけ声とともに、「ヒト」つまり「人材」という資源への注目が高まっている。では、企業の戦略実現のために、経営や人事は、どのように「ヒト」に働きかけていく必要があるのだろうか。20年にわ... もっと見るたって人材開発・組織開発の実践と科学に取り組んできた立教大学教授・中原淳氏の最新刊『人材開発・組織開発コンサルティング』(ダイヤモンド社)から一部を抜粋し、編集を加えてお届けする。連載第4回は、経営・現場にインパクトを与える、人材開発・組織開発コンサルティングを実現するための7つのステップを紹介する。 閉じる

「勘と経験と度胸」(KKD)からの脱却

 さて、ここまでお読みいただいた読者の皆さんには、人材開発も組織開発も「経営・現場にインパクトを与える課題解決のプロセスである」ということは重々ご理解いただけたかと思います。
──参考記事:人材開発・組織開発は「間接的」に利益に貢献する(連載第3回)

 これを理解した先で、わたしたちが次に格闘しなければならないのは、「具体的に、どのような手続きとステップを踏みながら、システマティックに課題解決を行っていくのか」ということです。

 振り返ってみれば、わずか20年ほど前まで、人材開発も組織開発も、いまよりもずっと経験者の「KKD」(勘と経験と度胸)の支配する「場当たり的」(アドホック:Ad Hoc)なものでした。組織の中にトラブルが起きるたびに、その解決策として、場当たり的に「やれ研修だ」「やれワークショップだ」「やれ組織調査だ」と施策が立てられ、あまり計画的とは言えないかたちで実践されてきたのです。悪い場合には、その後はやりっぱなしで、施策に対する評価を行い、施策の改善策を考えるといったことも、ほとんど取り組まれていませんでした。

 賢明な読者の皆さんのお勤めになる会社・職場では、そのようなことはなかったのかもしれませんが、たとえば、「若手の文書作成能力が低い、と事業部の長が言っているので、他社で評判がいいとされている論理的思考力の研修を取り入れよう」とか「管理職の間でハラスメントが多発しているから、コーチング研修を入れよう」といった具合に、「場当たり的」な誰かの思いつきや、「勘と経験と度胸」(KKD)によって、その場しのぎの対応を重ねてきている会社が、かつては、ほとんどでした。これでは「その場しのぎの対処療法」にはなるかもしれませんが、根本的な課題解決にはつながりません。

 こうした我が国の現状に対して、グローバルな人材開発・組織開発の潮流は、よりシステマティックに人材・組織課題の原因を分析し、適切な課題設定を行い、課題解決を行う方向に発展しています。たとえば、人材開発の領域では「HRD Process Model」というモデルが主張され、体系的な人材開発を組み立てるために利用されています。研修づくりに特化すれば、「ADDIEモデル」というモデルがとりわけ有名で、効果的な研修づくりの際、よく参照されています。一方、組織開発の領域には「OD MAP」と呼ばれる、組織開発の課題解決プロセスがあります。

 それぞれの領域で主張されているモデルは多種多様です。しかし、いずれのモデルにおいても、現場・現状の観察を徹底的に行い、データにもとづきながら課題を特定し、効果的な解決策の実施を、計画的かつ継続的に行っていくという点ではさして変わりはありません。

 拙著『人材開発・組織開発コンサルティング 人と組織の「課題解決」入門』では、それぞれのモデルを加味したうえで、人材開発にも、研修デザインにも、組織開発にも参照可能な課題解決プロセスを紹介します。

人材開発・組織開発コンサルティングのプロセス

 筆者は、人や組織の課題を解決するためには、しっかりと体系的かつシステマティックに「課題解決プロセス」を回していく必要があると考えます。

 たとえてみれば、ビジネスの現場とは「カオス」(混沌)です。そこは常に変化し、人が交差し、様々なやりとりが現在進行形で生まれています。組織・ビジネスの最前線では、多くの人材課題・組織課題が、日々「順調」に生まれ「人材開発で解決できる諸課題」と「組織開発で解決できる諸課題」が渾然一体と混じり合い、複雑に絡み合っています。

 しかも、さらに悪いことに、たいていの場合、現場に生きている人は「この課題は、人材開発の課題なのか、それとも、組織開発の課題なのか」について最初から「認識」していません。ビジネスの現場に生きている人々は、成果を出すために「自分の組織の抱える課題を解決したい」のであって、「人材開発がやりたい」わけでも「組織開発がやりたい」わけでもないのです。現場の人々が、心の底から求めているのは「自分の組織の課題が解決し、成果を出せるかどうか」だけです。

 よって、この混沌として荒涼とした現場の姿を眼前にして、わたしたちが手に入れなければならないのは、「人材開発の課題」や「組織開発の課題」が渾然一体と混じり合っていても、体系的かつシステマティックに課題解決が行える頑健な「課題解決プロセス」です。

 『人材開発・組織開発コンサルティング 人と組織の「課題解決」入門』では、より多くの人に人材開発・組織開発の課題解決、すなわち「人材開発・組織開発コンサルティング」に取り組んでいただけるよう、そのプロセスを、できる限り体系化し、形式知化して著していくことを目指しています。具体的には、人材開発・組織開発コンサルティングのプロセスを、図表に見るように、「(1)出会う、(2)合意をつくる、(3)データを集める、(4)フィードバックする、(5)実践する、(6)評価する、(7)別れる」の7つのステップに分け、順に説明していきます。