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生成AIの新規事業を始めるべきか
「生成AIを活用した会社を起業しようと考えています。ですが、実は迷っています。立ち上げるのはできそうですが、私にとって容易ならば、他の人にとっても簡単なのではないでしょうか」
今年に入って、筆者はかつてないほど多くの起業家からこのように相談されている。生成AIに心躍る理由のひとつは、その利点が無限にあるように思えるからだ。たとえば、何らかの一般的な言語推論能力(文脈を理解し新たな結論や情報を導き出す力)を持つAIモデルの構築に成功したとしよう。そのインテリジェンスは、映像作品の脚本やマーケティング資料、教育用ソフトウェア、カスタマーサービスなど、言語推論能力を活かせるさまざまな新製品に応用できるだろう。
ソフトウェア開発会社のルカは、顧客が自由な会話を楽しめる「AIフレンド」のチャットボット、レプリカを開発した。この技術が非常に優れていたため、ルカのマネジャーには外部からの依頼が届くようになった。チャットボットを用いたカスタマーサービスを改善したいという企業が自社ブランドに使えるソリューションを提供してほしいというものだ。最終的にルカは、レプリカと同じ基礎技術を使って、企業向けソリューションと消費者向けのAIデートアプリを新たに開発した。後者はマッチングアプリのティンダーのようなものだが、「デート」の相手はAIのキャラクターである。
生成AIが自社に向いているかどうかを判断する際は、2つの重要な問いに対する答えを明確にしよう。それは、1)生成AIの基礎モデル領域で勝負するのか、それとも基礎モデルを活用した最上層のアプリケーション領域で勝負するのか。また、2)高度にスクリプト化されたソリューション(事前に設定された条件に従うもの)から、高度に生成化されたソリューション(そのつど、新たな情報や知識を生み出すもの)までの幅広い範囲の中において、事業をどこに位置づけるのか、だ。これら2つの問いに対する答えによって、競争相手から身を守るための長期的な戦略が見えてくる。
基礎モデルの開発か、アプリケーション開発か
現在、テック大手は最も汎用性の高い独自のモデル、つまり「基礎モデル」を貸し出している。エレウテールやスタビリティーAIなどがオープンソース版を少額の課金で提供している。基礎モデルはコモディティ化しつつあり、この分野で競争できるのは限られたスタートアップだけだ。
基礎モデルの開発は、最も魅力的に見えるかもしれない。今後、広く利用されるようになれば、それをもとにした多くのアプリケーションが生まれ、利益の高い成長機会をもたらすからだ。さらに、最も洗練されたAIのいくつかはすでに「既製品」として入手可能で、すぐにもサービスを始めることができる。そのような刺激的な時代を迎えているのだ。
ただし、基礎モデルをもとに事業を立ち上げようとする起業家は、難題に直面している。ほかのコモディティ化した市場と同じように、生き残れるのは、バンドルされていない製品を安価で提供する企業か、基礎モデルよりも強化された機能を提供する企業だからだ。
たとえば、ディープグラムやアッセンブリーAIなどの音声認識API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の企業は、バンドルされていない安価なソリューションを提供することで、互いに競争するだけでなく、アマゾン・ドットコムやグーグルなど大手テック企業とも競っている。ただし、価格や処理速度、モデルの精度など、機能をめぐり激しい競争が続いている。
対照的に、アマゾン、メタ・プラットフォームズ、グーグルなどのテック大手は、画像や言語、そして(ますます増えている)音声と映像の推論において、最先端の技術を絶えず提供し続けるために、R&Dに多額の投資を行っている。たとえば、オープンAIはチャットGPTの計算トレーニングに200万~1200万ドルを費やしていると見られる。しかも、チャットGPTは彼らが提供するいくつかのAPIの一つにすぎず、ほかにも複数の開発が進んでいる。