自分の弱点を克服するために力を借りる

 筆者がセラピストだった頃、記録をつけることが何よりも苦手だった。文書に残すという作業が大嫌いだったのだ。記録を取ることによって、頭の回転が抑えられるように感じた。筆者は、クライアントと対面している時には、会話に全エネルギーをそそぐようにしていた。もしまたその仕事をするとしたら、自分一人でその点を改善しようとするのをやめて、きちんと記録を取るためにサポート役が必要だということを受け入れるだろう。

 同様に、自分だけが重要な仕事のやり方を知っているが、プロセスを体系化するのが苦手な人は、それを誰かに手伝ってもらうとよい。クライアントや上司にどうしても「うん」と言わせなければならないにもかかわらず、コミュニケーション能力に自信がない人は、そのスキルに長けたメンターや友人、あるいはAIチャットボットに頼んで、説得力を高める手助けをしてもらう。

 同様に、コンフリクトマネジメントが得意ではないが、チームの内輪もめで重要なプロジェクトが頓挫しそうなら、必要に応じてコンサルタントを雇い、対策の提案と、場合によっては遂行まで依頼するとよいだろう。また、オフィスが散らかっていて書類が紛失するおそれがあるなら、プロの整理収納業者に数カ月ごとに来て職場をリフレッシュしてもらおう。失敗を防ぐためには、意志の強さや勤勉さだけでは足りないことを肝に銘じよう。同僚に限らず、友人、家族、テクノロジーの力を借りよう。

自分の強みを活かす

 筆者はよく、「自分の強みで弱みをカバーする」よう主張しているが、これは失敗の回避にも当てはまる。たとえば、視覚的にクリエイティブな人は、視覚的なリマインダーをつくり、ユーモアが強みなら、ユーモラスなリマインダーをつくる。「機内安全ビデオ 面白い」と検索すると、安全に関する真剣な忠告に、乗客を注目させる工夫の例が見られる。

 社交的で人付き合いが得意な人は、その才能を発揮して、他の人がふだんは明かさないような情報、たとえばある個人やグループと提携しない理由などを聞き出してみる。反対に、内向的な性格の人は、話すことより話を聞いたり観察したりすることを好む性質を活かして、いち早く問題に気づいたり、相手が他言される心配なく、懸念事項や間違いを打ち明けられるようにできるかもしれない。自分の長所が自分のどのような問題の解決に役立つかを考えよう。自分自身の類稀な強みを知る一つの方法は、「95%の人はやらないけれど、自分がすすんでやることは何か」を自分に問いかけることである。

自己破壊行動(セルフサボタージュ)に対処する

 人は、大きな不安を感じると、不安が現実になる可能性を高めるような、自己破壊的な行動を取ってしまうことがよくある。たとえば、自分の弱みに気づいていながら、そこに触れられたくないがために、メンターや上司に助けを求めない。あるいは、抑鬱状態に陥っても、恥ずかしさや不名誉、または耐えるべきだという考えから、配慮を求めない。しかし、それでは、調子の悪い時に失敗を犯す可能性が高まってしまう。

 あるいは、お金を無駄にしたくないため、保証のない問題解決策は試さない。または、完璧主義者なので、改善できても、完璧に解決できない問題には対処しようとしない、などだ。自己破壊行動は、自分自身に思いやりを持って語りかけるなど、工夫して克服することが必要だ。

同じ問題に取り組む人々と協力する

 失敗については、「自分や同僚がこの重要事項を間違えないようにするには、どうしたらよいか」のように、個人やチームのレベルで考えることがほとんどだろう。しかし、よりよい解決策や、同じ不安を抱える仲間を得るために、その業界や職種でのミスを減らそうとしている、規模の大きな取り組みに参加することも検討しよう。

 たとえば、苦情や懲戒処分に関する委員会や、その職種の人向けのガイドラインを制定する委員会のメンバーになるなどだ。また、人に教えると普通、自分のやり方も磨かれる。ミスを最小化し、排除する仕事の進め方について、人に教える機会を見つけるとよいだろう。このテーマで、業界の会議に向けて講演原稿を書いたり、パネルを主催したりしよう。

簡単な行動で、小さな脅威に気を取られるリスクを減らす

 注意は、何よりも最大の脅威に向けるべきだが、簡単な方法を使って、小さなミスを犯すリスクを減らし、それによって注意が散漫になるのを防ぐことができる。些細な問題の発生頻度を減らす、小さな行動を取り入れよう。そして、問題のすべてを排除することはできないことを受け入れよう。簡単に達成できることを選ぼう。

 たとえば、医師が患者やその家族の名前を忘れることが心配なら、患者とのやり取りでメモを取る際に、ページの上部に名前を書き留めるようにする。些細なミスを減らして、判断力に余裕が生まれれば、大きな失敗のことを考えたり、防いだりできるようになる。

失敗が許される趣味を持つ

 バランスの取れた人生を送るために、ミスや失敗がまったく問題にならないような趣味を始めてはどうだろう。たとえば、筆者は最近、家庭菜園を始めたが、成功率が低くてもまったく問題にならないため、よい気分転換になっている。なにしろ種は、1袋100粒入りで数ドルしかしない。友人の友人は熱心なサーファーで、波に乗れなかったり、途中で降りたりすることが何十回あっても、最終的に数回よい波に乗れることに満足している。それは、新興企業のCFOとして、会社が資金不足に陥るのを防ぐという彼の仕事の、最高の気晴らしになっているという。

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 完璧を求められ、失敗が高くつくと、失敗をするのが怖くなるものだ。そのことで眠れなくなったり、リーダー職や責任ある立場を避けたりする人もいる。だが、失敗のリスクを建設的に減らし、不安を軽減する方法はあるのだ。


"Managing Anxiety When There's No Room for Error," HBR.org, June 27, 2023.