失敗が許されない時、その不安にどう対処すべきか
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サマリー:完璧を求められる職種では、「どうしても失敗できない」という感覚にさいなまれることになる。では、そうした不安に、どう対処すればよいのだろうか。筆者がお勧めするのは、重大なミスを犯す可能性を減らすと同時に... もっと見る、ミスをするかもしれないという不安を減らす対策を講じることである。 閉じる

「失敗できない」という不安との付き合い方

 職業によっては、失敗は付き物で、それによる損害もさほど大きくなかったりする。ブックデザイナーが何度も装丁を一から考え直したり、発明家が試作を100回重ねたり、起業家が顧客からのフィードバックに基づいて、アイデアをあちらからこちらへと変えたりしても、それほど大した問題ではない。こうした職種では、失敗は成功への通り道なのだ。また、責任が軽く、失敗のリスクが小さい立場の仕事もあるだろう。

 しかし、完璧を求められる職種ではどうだろうか。神経外科医がミスをしたり、刑事事件の弁護士が不測の事態に見舞われる日があったりしては困る。会計士は、国税庁や証券取引委員会、その他の規制当局に、間違った財務諸表を提出するわけにいかない。セキュリティの仕事は、潜在的な脅威を監視するためにあり、その成功はいかなる脅威も見逃さないことだ。こうした職種に就いている読者もいるかもしれない。そこまで劇的な影響はなくても、嫌味な上司や解雇の危険、根深い不安によって、そう感じる人もいるだろう。

「どうしても失敗できない」という感覚にどう対処すればよいのだろうか。筆者がお勧めするのは、重大なミスを犯す可能性を減らすと同時に、ミスをするかもしれないという不安を減らす対策を講じることである。

不安の基本

 不安がどのように作用するか、基本的な背景から始めよう。まず、考えすぎは問題解決にはならない。体をマヒさせ、動けなくしてしまう。第2に、不安によって注意の向く範囲が狭くなるため、特定の失敗や脅威にのみ執着し、他を無視するようになる。最後に、行動は不安の一つの解消法である。

 失敗すると代償が大きかったり危険だったりする職業(医療、会計、エンジニアリング、セキュリティなど)には、生まれつき真面目で勤勉、何事もきちんとやり遂げることが得意な人が集まる傾向がある。しかし、もともとそのような性格の人が、注意を怠らないようにさらに努めるのは、難しい。もともと用心深かったり心配性だったりする子どもが、親に「気をつけなさい」と注意され、よけいに神経質になるのと似ている。ミスを減らすことに重点を置く機関や訓練に身を置いている人は、もともとある完璧主義や不安症が増長される可能性がある。

 緊張を和らげるには、以下の方法がある。

大きな失敗と小さなミスを区別する

 あらゆる失敗の可能性について考えていると、最も恐れなければならない失敗に注意が向かなくなる。そうした精神的な負担を軽くするには、定期的に、最悪のミスを犯すリスクを減らす行動を取ることだ。どのようなミスを重視すべきかを知るには、容易に思いつくものと、機会費用などの見過ごしがちなものとの両方を考えることである。

 関連しているが、見過ごしがちな重大なリスクは、ほかにもある。一つは、元国務長官のドナルド・ラムズフェルドが「未知の未知」(unknown unknowns)と呼んだもので、あまりに想定外の事態から生じるために、考慮されないリスクである。もう一つは、「自分が何を知らないかはわからない」というもので、自分では気づいていない盲点や、完全に理解しているつもりでも実際は理解していないもののことである。

 こうしたリスクを軽減する仕組みを整えよう。たとえば、自分が見落としているかもしれないリスクに気づく方法として、毎月1回、同僚とのミーティングを予定し、難しいケースへの取り組み方について話し合う。「複雑な意思決定に関する議論」を定期的に予定し、スケジュールに記載しておけば、確実にそれが実行される。いくつかの事例を挙げて、自分の仕事であればどのような問題が起こりうるか尋ねるのだ。

 たとえば、あなたは「研究室の学生が指示を間違って解釈し、危険な状況に陥る」ことに気づいていないかもしれない。「手術を補助するトラベル(応援)ナースが、現場のやり方ではなく、自分が慣れている手順で仕事をし、混乱や重要なステップの見落としにつながる」可能性もある。もしかしたら、「重要な締め切りの前日にソフトウェアがアップデートされ、それがバグだらけで、頼りにしていたシステムが使えなくなる」かもしれない。そのような失敗に陥らないためにいま、何ができるだろうか。

 用心深い人なら、最大のリスクを見極め、回避するようにみずからを再訓練することができる。しかし、そのためには、他の人が通常見ている以上のものを見越す判断力と、不確実性を許容する能力が必要だ。

リスクを減らすシステムや習慣を取り入れる

 意志の力でミスを減らそうとか、不調な日をつくらないようにしようなどと考えるのではなく、そのような非現実的でロボット的な完璧さに頼らないシステムをつくるべきである。

 たとえば、チェックリストのような基本的な手法でも、ミスを減らせることが証明されているが、業種によってはあまり活用されていない。ヒントを求めている人は、他の業界や職種で行われている方法を取り入れられないか検討してみよう。たとえば、心臓モニターや人工呼吸器などの医療機器には、故障を検知して素早く警告を発するために、冗長性のあるセンサーやアラームが組み込まれていることが多い。どうすれば、職場の人々に素早く、あるいは二重の警告シグナルを自動的に届けられるだろうか。航空業界のような業界では、ヒヤリハットに対する厳しい報告義務がある。

 「重大な事実誤認のある記事が、危うくそのまま印刷されそうになった」、あるいは「スタッフの徹夜作業で、かろうじてプロジェクトが締め切りに間に合った」などの場合も、同様に報告すべきだろうか。非難するのではなく、純粋に教訓を得ることに重点を置いた有益な方法は何か。対立意見を出し合い、懸念事項を勇気を持って発言し、健全な議論を交わせる多様性の高いチームのつくり方について、科学的知見を得よう。特殊な意見を求め、それを積極的に補強することが評価されるような文化をつくろう。自分が知らなかったことに気づいていなかったことを誰かが指摘してくれた時は、今後もそれを続けてほしいことをしっかりと伝えるようにしよう。