
複数業務の同時進行を求められるマネジャー
今日、マネジャーとして成功するには、いくつもの任務に「同時に」取り組まなければならず、厳しい状況を強いられている。チームメンバーをサポートすると同時に、上層の利害関係者に影響を与える。日々の業務を進めると同時に、想定外の問題を解決する。四半期目標を達成すると同時に、戦略的に思考する。こうしたことを「同時に」求められ、過剰な負荷のまっただなかにあるマネジャーが、組織の中で最も自分のキャリア開発を優先できない状態に陥るのは不思議なことではない。
筆者らは、このように「ねじれて」直線的に進まないキャリアを後押しすべく、世界各地で毎年、何千人ものマネジャーをサポートしている。彼らはみずからのキャリア開発の行き詰まりにフラストレーションを覚え、何とかして学習に投資する時間を見つけようと苦闘している。筆者らは、キャリア開発においてマネジャーが陥りがちな3つの誤りを観察して、日々の仕事上の要求と自己開発への投資のバランスを取るうえで役に立つ、いくつかの解決策を明らかにした。
1. キャリア開発についての言行不一致
筆者らのクライアントであるマネジャーたちは、コーチングやチームメンバーのキャリア開発へのサポートは管理職の役割の中でモチベーションが上がる楽しい部分だと、しばしば口にする。ただし、彼らは自分自身が行動のモデルになることの重要性を過小評価している。
もしマネジャーが自己開発に投資していることをチームメンバーが認識していなければ、それは言行不一致になり、マネジャーにもチームにも負の連鎖反応が起きる。チームメンバーは、キャリア開発に時間を割くのが正しいことであるのかどうかに確信を持てなくなり、マネジャーが本当に継続学習を重視しているのかどうかさえ疑問視するかもしれない。すると、マネジャーは彼らのパフォーマンスを向上させるスキルや能力を開発し、将来への夢をサポートする重要な機会を逃すだろう。
学習目標を共有する
マネジャーがキャリア開発について言行不一致を回避する、単純で効果的な方法の一つは、自分の学習目標をチームにオープンにすることである。キャリア開発の優先順位をチームと共有することには、いくつもの利点がある。
第1に、マネジャーはどの能力の開発に集中したいのかを明確にせざるをえなくなり、目標を共有することで説明責任が増す。第2に、チームメンバーを巻き込むことで、自分のキャリア開発をサポートしてくれる、より多くの人々を周囲に置くことになる。また、他者から学ぶことがレベルや階層と関係するという考えも払拭される。最後に、マネジャーが目標を設定し堅持しているのをチームメンバーが見れば、彼らもそうするように駆り立てられるだろう。
たとえば、マネジャーが内部での認知度を高めるという学習目標を共有したら、チームメンバーはイベントでスピーチする機会を見つけ出してくれるかもしれない。あるいは、マネジャーがデータを活用して判断する能力を磨こうとしているなら、チームメンバーは、マネジャーが現在うまくやれている点や、さらに改善できる点についてフィードバックしてくれるかもしれない。
そうすれば、マネジャーのやることリストにキャリア開発をあらためて付け加える必要はない。それは日々の業務の一部になり、マネジャーの下で働く人々が促進してくれるだろう。
2. 成長の壁となる社内環境
マネジャーは就業時間内にこなすべき多くの仕事がある。そのため、社外での能力開発にほとんど時間を割けないのも無理はない。どこか別の場所で新しい人々とともに学ぶ時間と機会を見つけるという課題は、あまりにもハードルが高く、「やること」ではなく「やるべきこと」に分類されてしまう。
社内だけの能力開発に依存すると、マネジャーは狭い世界観しか形成することができないし、学習が限定される。また、社内の知識とネットワークというバブルの中で活動していると、既知の人物との関係や既知のものを強化するだけで、好奇心を養えない。マネジャーは社内のバブルが成長の壁にならないように、そこを出て学ぶ必要がある。
情報交換セッションを行う
外部のものを持ち込む効率的な方法の一つは、競争関係にない組織のマネジャーに声をかけてチーム開発セッションを共同開催し、両方のチームが互いに専門的な知見を分け合うというものだ。たとえば、アジャイル手法の得意なチームが、高いコミュニケーション能力を持つチームと情報を交換する。あるいは、大企業の確立したチームが小さなスタートアップ企業のチームと、異なる活動の文脈からイノベーションに関する知見を交わし合うこともできるだろう。
こうした情報交換セッションによって、誰もが別の仕事の世界を訪れ、新しいつながりを形成し、ともに学ぶことができる。これは、言行不一致の克服の一助にもなる。セッションの形態としては、ランチを取りながらバーチャルで1時間行うのもよいし、丸1日、一つの部屋に集まって行うのもよい。情報交換セッションを実施することによって、マネジャーもチームも、何か特別なことをスケジュールに押し込むのではなく、現在の仕事のリズムの一部として、社外の人々から定期的に学ぶ機会を持つことができる。