オフィスの空気をきれいにする費用対効果の高い方法
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サマリー:米国疾病対策センター(CDC)は、感染症の空気感染リスクを減らすため、オフィスや店舗のような閉鎖空間の換気目標として、1時間に5回という基準を打ち出した。この基準達成のため、空調システムを変えようとすれば... もっと見る、莫大な出費を伴う。本稿では、ポータブル型の空気清浄機などを用いて、コストをかけず、その基準を容易に達成する3つのステップを紹介する。 閉じる

オフィスや店舗における換気の重要性

 2023年5月、米国疾病対策センター(CDC)は、新型コロナウイルス感染症などの感染症の空気感染リスクを減らすために、オフィスや店舗のような閉鎖空間の換気目標として、1時間に5回という基準を打ち出した。この5ACH(ACH=1時間当たりの換気回数)の基準を守って換気を行えば、すべての人を守れる可能性が高まる。

 また、免疫機能が弱まっているなどのリスクがあり、ワクチン接種によって十分に守れない人たちのことを考えると、この基準の遵守はとりわけ重要な意味を持つ。実際、CDCは現時点でも、免疫機能が弱まっている人と妊娠中の人に対して、混雑している屋内空間、もしくは換気の悪い屋内空間を避けるよう推奨している。

 雇用主がこの換気目標を真剣に受け止めるべきなのは、CDCがそのような勧告を発したことだけが理由ではない。見落とせない要素の一つは、2023年6月27日に発効した「連邦妊娠労働者公正法」だ。既存の「障がいのある米国人法」が免疫機能の弱まっている人たちの保護を雇用主に義務づけていることに加えて、この新しい法律は雇用主に対して、妊娠している働き手に「合理的な便宜」を図るよう義務づけている。免疫機能の弱まっている人と同じく、妊娠中の人とお腹の子どもは、新型コロナウイルス感染症によって複雑な合併症を発症するリスクが高いためである。

 もう一つの要素は、最近頻度を増しているように見える森林火災だ。実際、今年(2023年)6月にカナダで発生した森林火災が原因で深刻な大気汚染が起こり、その影響は米国内にも波及した。

 5ACHの基準を達成するために空調システムを新しいものに変えようとすれば、多くの建物では大規模な改修が必要になり、莫大な出費を伴う。それに、改修工事が終わった後も、そのような空調システムにより大量の空気を入れ替えるためには、途方もないエネルギーコストがかかる。その点、ポータブル型の空気清浄機を用いれば、容易に基準を達成できる。実現に向けて必要なのは、以下の3つのステップだ。

1. ポータブル型の空気清浄機を用意する

 ポータブル型で騒音の少ない空気清浄機──HEPAフィルター空気清浄機や自力で組み立てるDIY式空気清浄機(ボックス扇風機とフィルター、そのほかのありきたりな材料を使ってつくる)で部屋の空気を入れ替えれば、費用対効果の高い形でCDCの基準を達成できる可能性がある。

 サンフランシスコ地区の学校における筆者らの経験によると、広さ80平方m程度、天井の高さ3m程度の典型的な教室の場合、3台のDIY式空気清浄機により、わずか250~400ドル程度の導入コストでCDCの基準を達成できる可能性がある(1平方フィート<約0.09平方m>当たりの導入コストは0.25~0.50ドル)。導入後の1カ月当たりのエネルギーコストも、月額10ドルに満たない。

 HEPAフィルター空気清浄機は店舗の店頭で購入できるし、DIY式空気清浄機は短時間で組み立てられるので、わずか数日で有効な空気浄化ソリューションを導入できる。その有効性は、CDC米国環境保護庁(EPA)によっても認められている。DIY式空気清浄機は、歴史的に差別を受けてきた集団のために活動している団体には無償で提供されているケースもある。また最近は、PCの冷却ファンを用いた、より省エネ性能の高いDIY式空気清浄機のモデルも登場している。

 一般論として、設置すべき空気清浄機の台数と、必要とされる全体のコストは、部屋の広さおよび換気目標に比例する。また、空気清浄機の中には、換気のスピードを調整できるものも多い。そこで、5ACHというCDCの基準を達成できるように、空気清浄機のスピードを設定すべきだ。そうしなければ、十分な効果が得られず、基準を達成できない可能性がある。空気清浄機を設置して作動させ始めた後は、手持ち型の微粒子計測器を使って、室内の空気中の微粒子の変化を計測することにより、ACHをチェックすればよい。