企業による社会貢献と営利の追求は必ずしも矛盾しない
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サマリー:企業の社会貢献がコストと見なされる時代から、評価される時代へ。ハーバード・ビジネス・スクールで最も若くしてテニュア(終身在職権)を得た教授の一人であり、「インパクト加重会計」の旗振り役にしてESG(環境... もっと見る、社会、ガバナンス)界の権威、ジョージ・セラフェイム氏の最新刊『PURPOSE+PROFIT パーパス+利益のマネジメント』(ダイヤモンド社、2023年)から一部を抜粋し、編集を加えてお届けする。第3回は、当初は風当たりの強かった「パーパスと利益の両立」というテーマに対し、世の中のとらえ方が大きく変わってきた点について、その中心で研究を続けてきたセラフェイム氏が解説する。 閉じる

企業と社会の目指すものが一致する世の中に

──前回までの記事:
なぜESG界の権威ジョージ・セラフェイムは、企業の社会善に注目したのか(連載第1回)
パーパスを重視する企業は、競合他社より高い株式リターンを得られる(連載第2回)

 パーパスと利益のマネジメントについて詳しく述べていく、本書『PURPOSE+PROFIT パーパス+利益のマネジメント』の構成を説明しよう。

 パート1では、企業の目指すものと社会の目指すものとを、それまでにない形で一致させる要因になった、いくつかのトレンドについて論じる。例えば以下のようなトレンドだ。

・企業に世界貢献を望む我々の意思を反映して、企業のパーパスはゆっくりと変わりつつある(第1章)。

・仕事により多くのものを求める社員が増え、取引先企業により多くのものを求める顧客が増えたため、そうした社員や顧客の意識と行動も変わりつつある(第2章)。

・テクノロジーとソーシャルメディア、そして新しいデータ指標のおかげで、我々はかつてないほど鮮明に企業行動を〝見える化〟できるようになった。このため、これまでよりはるかに大きな結果責任を企業に課すことができる(第3章)。

・このため、企業はかつてないほど劇的にその行動を変えつつある。自社にプラスの結果を得るために、公共益を提供し、社会的役割を果たすことに力を入れている(第4章)。

 パート2では、視点を企業・投資家・社員へと移す。前述のような社会トレンドを利用して、彼らがそれぞれのビジネス・投資・生活で大きな変化を起こしていくためにはどうすればいいか、次のような点を論じる。

・企業が「善行の新しい分析手法」を実際の行動につなげ、社会にプラスのインパクトを与える新しい取り組みを立案するには、どのような戦術が考えられるだろうか(第5章)。

・前述した社会トレンドによって可能になった価値創造の6つの類型について(第6章)。

・投資家の役割について。さらに、投資家が「企業の善行は資本市場で報われ得る」という認識を持つことが、企業に正しい道を歩ませるためにいかに重要であるかについて(第7章)。

・我々全員が、前述の社会トレンドという新しいレンズを通して商品購入やキャリアを見直し、日々の生活や自分の所属する組織になるべく大きな影響を与えるにはどうすればいいか(第8章)。

 最終的に、読者は社会のこの動きについて深く理解し、こうした考え方を自分の生活や職場で実践していくのに役立つヒントを得られるだろう。本書全体の狙いと各章の役割を図示したのが図表1-1だ。

 こうしたテーマに関する私の研究は、予想もしなかった形で広がっていった。本書「パート1」で取り上げるトレンドのすべてが、突如としてみんなの興味を集め、この分野への関心が一夜のうちに転換点を迎えたかのようだった。私の研究から生じたアイデアに耳を傾ける人が急に増えたのである。企業幹部からの問い合わせや会議へのお招きが急増した。この勢いは本物に見えた。企業幹部が実際の行動を起こす姿をいくつも見た。

 私や他の研究者たちが提示してきたデータはあまりにも明白で、もはや無視できないほどの説得力を持つようになっていた。前述したような理由により、〝善行と好決算は必ずしも矛盾しない〟──少なくとも、注意深く賢明なサステナビリティ戦略を採っているならば──と社会が気づき始めたのだ。さまざまな組織が雨後の竹の子のように生まれ、倫理的かつ持続可能な投資についての基準を定め、投資の経過を監視するための評価基準を生み出した。

 連邦政府や州政府も、国や州の年金基金が企業に投資する際は社会的要因を考慮するよう求め始めた。米大手ケーブルテレビ局ショウタイムが2016年初頭から放映を始めた投資ファンドのドラマ「ビリオンズ」では、2020年のシーズン5で社会的インパクト投資とサステナビリティをストーリーの中核に据えている。数年前なら決して大衆の関心を引かなかったテーマである。

 私がこの研究を始めた頃、S&P500企業の中で取締役会にひとりも女性がいない企業は8社に1社以上あった。それからわずか10年、今や取締役会に女性がいないS&P500企業はゼロである(それどころか女性比率は25%を超えている。もちろんまだ完璧ではないが、確かな進歩である)。当時、世界の大企業のうち、自社事業が環境に与える影響を公表している企業は20%に満たなかった。今日では90%近くが年次報告書に記載している。

 研究を始めたあの頃とは正反対に、もはや私は確信している。我々の暮らすこの世界は極めて幸運なことに、社会的目標を目指すことと営利の追求とが、かつてないほど一致するようになってきている。業界や年齢に関係なく、組織のどの階層にいる人にとってもそうであると──。

 仕事はカネのためと割り切らねばならないという考え方と、それでも自分自身はカネを超える何かのために動いているという実感との間には矛盾が存在し、多くの人がそれを感じている(第1章で触れるが、私の教え子たちもそう感じている)が、実のところ両者の矛盾は思っているほどややこしい話ではないのだ。

『PURPOSE+PROFIT パーパス+利益のマネジメント』

[著者]ジョージ・セラフェイム 著 [訳者]倉田幸信
[内容紹介]
企業の善行と利益は両立する--企業がよいインパクトを社会に与えるための戦術的方法や、こうした社会的変化によって可能になった価値創造の6つの原型、これからの投資家の役割など、ロードマップとベストプラクティスを提示。ESG投資の世界的権威、ハーバード・ビジネス・スクール教授が示す未来への道。

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