世界に影響を与えながら、利益も出したいと考える人たち
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サマリー:企業の社会貢献がコストと見なされる時代から、評価される時代へ。ハーバード・ビジネス・スクールで最も若くしてテニュア(終身在職権)を得た教授の一人であり、「インパクト加重会計」の旗振り役にしてESG(環境... もっと見る、社会、ガバナンス)界の権威、ジョージ・セラフェイム氏の最新刊『PURPOSE+PROFIT パーパス+利益のマネジメント』(ダイヤモンド社、2023年)から一部を抜粋し、編集を加えてお届けする。第7回は、仕事で成功を収めながらも、より大きな使命に突き動かされ、キャリアの半ばでリスクを取り、パーパスを抱いて道を進む人が増えてきたことを例に挙げる。 閉じる

キャリアの半ばで挑戦をしようと決心する人が増えてきた

──前回の記事:マイクロソフトを復活へと導いたパーパスの存在(連載第6回)
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 私がレイニール・インダールと出会ったのはかなり昔、彼が世界有数の実績を誇るプライベート・エクイティ・ファームで働いていた頃だ。2007年に世界金融危機が起きると、レイニールは自分が体制側の囚人のように感じた。そして社会格差の問題を深く考えるようになり、自分は間違いなく正しい側にいると思えるようになりたいのだと気づいた。世界にマイナスの影響を与えるのではなく、プラスをもたらしたいと。

 レイニールは最終的に、変化を起こそうと決意する。彼は私の授業で話をするためにハーバード・ビジネス・スクールを訪れ、その後で昼食を共にした。次のキャリアをどうすべきか、彼は私に助言を求めた。世の中を変えたいという情熱を持っていたが、これまでの仕事を続けていても実現できるとは思えなかったのだ。そこで私は「自分のプライベート・エクイティ・ファームを立ち上げてみたらどうかな」と答えた。

 数カ月後、彼はESG問題に特化したプライベート・エクイティ・ファームのサマ・エクイティを立ち上げた。国連の持続可能な開発目標「SDGs」(貧困撲滅、飢餓ゼロ、質の高い教育、平等と正義、清潔な環境など)に役立つ解決策を生み出すためだ。レイニールは信じている。ESG問題(気候変動や教育、医療の革新による生活の質の向上など)で先陣を切る企業は、今後最大の成長をするに違いないと。そして、世界に貢献することは、ただメディア受けが良くなるとか消費者の批判をかわすとかだけの話ではなく、まさに事業戦略であり企業の成長を左右することなのだ、と。サマ・エクイティをESGに特化したファンドにすることで、そうした企業を応援し、世界にプラスの影響を与えることができる─彼はそう信じている。

 幸運なことに、私はサマ・エクイティの顧問役、そして出資者として、レイニールとパートナーたちが本物のパーパス主導の組織をつくり上げる様子をじかに見ることができた。同社は今や10億ドルの運用資産を管理しつつ、地球をなるべく持続可能にする手助けをしている。2021年、サマ・エクイティは最初の投資先企業である環境ソリューション企業ソルテラのイグジット(株式売却などによる投資資金の回収)を行った。ソルテラはそれまでの5年間で収益を7倍、企業価値をそれ以上に成長させ、目を見張るような投資リターンをもたらしたのである。

 私はレイニールのような人をたくさん見てきた。仕事で成功を収めながらも、キャリアの半ばで「これは自分の本当にやりたいことではない」と気づく。リスクを取ろう、もっと大きな影響を与えることで世界を変える挑戦をしよう、と決心するのだ。仕事を始めたばかりなのに、同じように考える人も次第に増えている。

 かつての教え子、ジャリド・ティングルもその1人だ。彼はフィラデルフィア近郊の母子家庭で育った。低収入家庭への支援制度のおかげで、競争率の高い私立高校になんとか通うことができ、その高校に通ったおかげでペンシルバニア大学ウォートンスクールを卒業でき、バークレイズ銀行の投資銀行部門に就職できた。

 ジャリドは20代後半になると、数人の友達とハーレム・キャピタル・パートナーズを共同創業した。同社はマイノリティと女性が創業した企業のみに投資するベンチャーキャピタルである。ジャリドによれば、マイノリティや女性が起こした企業は投資資金を得るのが難しいことが彼の研究でわかったそうだ。それでも成功した企業は、当然ながら高いハードルを乗り越える必要があったということだ。

 ジャリドは当初、まったくおカネが集められなくて苦労したが、最終的には4000万ドルのベンチャーファンドを立ち上げることができ、「今後20年間で1000人の多種多様な起業家に投資する」というハーレム・キャピタルの目標を達成できる可能性を得た。2021年には第2のベンチャーファンドも立ち上げた。今回は1億3400万ドルの資金規模だ。「多種多様な起業家を対象に投資するなんて不可能だ、とみなは思っています。その考えが間違っていると証明するつもりです」──ジャリドがハーバード・ビジネス・スクールを卒業した後、一緒にハーレム・キャピタルを題材にしたケーススタディを作成しているとき、彼はそう言っていた。本当にそれを証明したのである。

 もう1人、同じように社会貢献への熱意に動かされた元教え子のティファニー・ファムを紹介しよう。彼女の祖母はベトナムの起業家で、複数の新聞社を経営していくつもの会社を所有し、同国で初めて自動車を運転した女性の1人であった。その祖母を見習ったティファニーは、エンターテインメント産業で自分自身のキャリアを築いた。

 2014年、フォーブス誌がメディア業界を代表する「30歳未満の30人」(30 Under 30)の1人にティファニーを選ぶと、彼女の人生は一変した。自分独自のキャリアを築こうと考える若い女性たちから、助言を求めるメールが殺到したのである。多くの女性とやりとりを重ねるうち、ティファニーは世界中の若く意欲的な女性による巨大なニーズが存在することに気づいた。彼女たちは、助言とチャンスを渇望しているのだ。

 そこで彼女は、まさにそれを提供するプラットフォームを生み出すことにした。自分でウェブサイトをつくるためプログラミングの勉強をしている最中に、そう決めたのだ。「モーグル」と名付けられたそのソーシャルメディア・プラットフォームは、世界中の女性に向けて教育と学習材料を提供している。事業は収益性の高いサブスクリプションモデルで運営され、多種多様な才能を探し求める雇用主と、何百万人という潜在的な新規雇用者とをつないでいる。彼女の顧客の中には、世界最大級の企業も何社か含まれている。

 ここまで紹介してきた実例がはっきりと示すのは、パーパスを抱いて進む道、すなわち潜在的な利益だけをビジネスの目的とするのではなく、より大きな使命に突き動かされて進む道は、成功と充足感へ導いてくれる可能性を持つこと、そしてキャリアのどの段階にあろうともそのような大志を抱いてよいということだ。

『PURPOSE+PROFIT パーパス+利益のマネジメント』

[著者]ジョージ・セラフェイム [訳者]倉田幸信
[内容紹介]
企業の善行と利益は両立する--企業がよいインパクトを社会に与えるための戦術的方法や、こうした社会的変化によって可能になった価値創造の6つの原型、これからの投資家の役割など、ロードマップとベストプラクティスを提示。ESG投資の世界的権威、ハーバード・ビジネス・スクール教授が示す未来への道。

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