重要な点として、会社のダイバーシティ方針に不満を抱いても、不満や怒りだけが理由では、連邦雇用法(1964年公民権法第七編)に基づく無効を訴えることはできない。こうした訴えを起こすには、一般に、人種や性別を理由に仕事の機会を拒否された、昇進を阻まれた、解雇されたなどの「雇用上の不利な措置」を立証する必要がある。さらに、その行為が自分の人種や性別を理由としていることを立証する必要がある。単に、女性の功績を称える「女性の歴史月間」や黒人従業員ネットワークが存在することを差別の証拠とすることはできない。

 最後に、筆者らが相談を受けている多くの組織は、特定の集団をターゲットとした介入ではなく、すべてのマイノリティーの地位を高める普遍的な枠組みづくりに乗り出している。例えば、近年「アライシップ」という概念が米国の企業世界を席巻しているが、その理由の一つは、この概念が誰にでも当てはまるからだ。誰もが長所と短所を併せ持っており、誰かのアライ(味方)にもなれるし、自分のアライになってもらうこともできる。

 職場文化の構築に焦点を当てた普遍的活動もある。より自分らしさを発揮したり、自己表現を可能にしたり、従業員が報復を恐れずに声を上げる「心理的安全性」を高めたりするものだ。こうした戦略は、歴史的に優位にある集団も含めて万人に恩恵をもたらすため、差別的だという司法判断を受けることはない。この取り組みで最も恩恵を受けるのは周縁に追いやられている人々だ。なぜなら、職場で最も排除されていると感じているからだ。

 残念ながら、最高裁のカラーブラインド方針への転換は、広範な文化的反動の一種である。これにより、ダイバーシティ&インクルージョンの擁護者はますます守勢に追い込まれるだろう。3年前に法執行機関による黒人差別の是正を求めるブラック・ライブズ・マター運動が再燃して以降、さまざまな組織が社会正義へのコミットメントを示そうと躍起になった。だがいま、右派の活動家や政治家の圧力を受け、多くの組織がダイバーシティ活動の勢いを失ったり、経営環境を理由にダイバーシティ専門家を解雇したりしている。

 DEIプログラムをよく思っていなかった一部の企業リーダーが、今回の最高裁判決を理由にして、その打ち切りを決めることはおそらく避けられないだろう。しかし本稿で挙げた3つの活動(脱バイアス活動、アンビエント活動、普遍的活動)は、ダイバーシティとインクルージョンを推進する時代がまだ終わっていないことを示している。

 企業は、憲法上保護された人種や性別などの特性を理由に採用をしない限り、法的な規制を避けられるため、よりインクルーシブな文化を促進し、女性、有色人種、その他疎外されたグループの活躍を妨げる障壁を取り除くことができる。多様でインクルーシブな従業員の存在がイノベーションの実現、生産性、従業員エンゲージメントの向上につながるメリットを考えれば、このような取り組みは単なる理想ではなく、21世紀の企業にとって必要不可欠なものと言える。

 人口動態や社会情勢が急速に変化しているいま、アイデンティティや出自にかかわらず、誰もが帰属できるシステムを構築することは、これまで以上に急がなければならない。こうした活動は、アクティビスト的判決を下す現在の最高裁の制度下においても依然として不可欠である。そして、極めて重要な点として、この活動が合憲的であるのだ。


"What SCOTUS's Affirmative Action Decision Means for Corporate DEI," HBR.org, July 12, 2023.